研究課題/領域番号 |
23600012
|
研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
河村 聖子 独立行政法人日本原子力研究開発機構, J-PARCセンター, 研究員 (70360518)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 中性子散乱 / 分子性導体 |
研究概要 |
平成22年度に実施していた分子性導体β'-(BEDT-TTF)2ICl2の中性子非弾性散乱測定のデータ解析をおこなった。結晶格子によるブラッグピークは明瞭に十分な強度で観測されたが、磁気ブラッグピークは、観測可能な強度をもつことが予想されるにもかかわらず観測されなかった。これは、分子性導体の場合、スピンが分子(この系ではBEDT-TTFダイマー)に広く分布しているため、散乱ベクトルQの増加に伴い形状因子が急激に減少してしまうためであることがわかった。また、実験条件を改善することにより、磁気ブラッグピークの観測が十分期待できるということも明らかになった。23年度は、東日本大震災の影響で実験がすべて取り消されたため、計画していた中性子散乱実験をおこなうことはできなかったが、再度24年度の課題申請をし、採択が決まっている。22年度に実施した上記の中性子散乱実験において磁気ブラッグピークが観測されなかった理由が明らかになったことで、それを解決するための実験条件も明確になった。このことは、24年度に実施予定の中性子散乱実験において磁気ブラッグピークが観測される可能性をより高いものとし、本研究の最終目標である磁気励起の観測に大きく近づけたという点で、重要な意義をもつ。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成22年3月の東日本大震災により、実験の実施を予定していた施設J-PARCは甚大な被害を受け、運転の停止を余儀なくされた。そのため、23年度実施予定だった分子性導体β'-(BEDT-TTF)2ICl2の中性子散乱実験は取り消しとなった。平成23年12月に同施設が運転を再開するまでの間、研究代表者を含むJ-PARCの研究員は、施設の復旧作業をおこなっており、中性子非弾性散乱装置アマテラスのバックグラウンド軽減のための新規デバイスであるラジアルコリメーターの開発も遅れた。しかしながら、平成22年度に測定した上記の分子性導体のデータ解析をおこない、周囲の研究者との議論を進める中で、前回の測定で磁気ブラッグピークが観測されなかった理由がわかり、改善策が明らかになった。平成24年度に再度申請した課題も採択され、11月に実験実施予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
24年度はまず、連携研究者の谷口准教授らによってβ'-(BEDT-TTF)2ICl2単結晶をさらに増量する。11月には、J-PARCの中性子非弾性散乱装置アマテラスを用いて、この系の磁気ブラッグおよび磁気励起の観測を目指す。ごく最近になって、この系を含むいくつかの分子性導体において、ダイマー内での電荷の不均化による強誘電性という興味深い現象が注目されるようになった。そこで、これを反映したフォノンの温度変化に関する中性子非弾性散乱測定も急きょ計画した。一般的にフォノンは磁気励起よりもシグナルが強いため、科学的な意義のみならず、磁気励起観測へ向けた重要な情報となることが期待される。また、本研究では、中性子非弾性散乱とミュオンスピン緩和(μSR)両手法を用いてダイナミクスの観測を目指している。そこで分子性導体への応用に向けて、24年度前半に、スピン液体あるいは長距離磁気秩序を基底状態にもつ無機物質のμSR測定も計画している。これらの実験と並行して、アマテラスのバックグラウンド軽減のために使用するデバイス、ラジアルコリメーターの製作とコミッショニングも、引き続きおこなっていく。
|
次年度の研究費の使用計画 |
実ビームでの軸立てが困難な分子性導体において、単結晶試料の軸を入射中性子に対して正確に合わせるための治具を製作する予定であり、200,000円を計上する。消耗品としては、中性子実験用の試料セル5個を購入するほか、インジウムシール等の周辺部品や、薬品類の購入のために合計250,000円を計上する。24年度の旅費は、国際会議に2回参加するため海外および国内出張各1回分、国内学会3回(日本物理学会2回、日本中性子科学会1回と、研究打ち合わせのための旅費等、合わせて700,000円を計上する。残りは、論文投稿、学会参加費等に使用予定である。
|