研究課題
当初の予定では、平成25年度は、分子性導体β'-(BEDT-TTF)2ICl2およびθ-(BEDT-TTF)2CsZn(SCN)4に対して中性子非弾性散乱実験をおこない、これらの系の電荷およびスピンと、低エネルギーの格子ダイナミクスとの関連を調べる計画であった。しかし、5月に発生したJ-PARCハドロン施設の事故により、実験を予定していたJ-PARC物質・生命科学実験施設(MLF)も9ヶ月にわたり運転が停止となり、この影響で、予定していた上記の実験は中止となってしまった。また、事故対応のため、予定していた国際学会での発表もとりやめる結果となった。従って今年度計画していた研究は遂行することができず、本研究を26年度まで延長することとなった。25年7月には、分子性導体の国際会議ISCOM2013に参加し、昨年度までに得られたβ'-(BEDT-TTF)2ICl2の中性子非弾性散乱測定の結果を口頭発表した。発表では、この系の電荷・スピンと密接に関連したフォノンモードの異常について、中性子散乱のチョッパー分光器では世界で初めて観測に成功したことを報告し、関連した研究を行う参加者との議論を行うことができた。その後さらに解析を進め、論文を執筆中である。
4: 遅れている
本研究課題はすべて、J-PARC物質・生命科学実験施設の中性子およびミュオンビームを用いて実施されるものであるが、平成25年5月に発生したJ-PARCの事故により、当該実験が運転中止となってしまったため、今年度予定していた実験がすべて中止となってしまった。また、事故対応のため、予定していた学会等の発表(4件中2件)もとりやめる結果となった。従って、計画は大幅に遅れており、26年度まで延長することとなった。
平成25年2月からJ-PARC MLFが運転再開したため、平成26年度はまず、昨年度実施できなかった分子性導体θ-(BEDT-TTF)2CsZn(SCN)4(以下θ型塩)に対する中性子非弾性散乱実験を行い、フォノンモードの観測に挑戦する。すでにフォノンの観測に成功しているβ'-(BEDT-TTF)2ICl2(以下β'型塩)が電場下で強誘電的な電荷秩序を示すのに対し、θ型塩は電荷グラス状態を発現することが報告されており、電荷秩序およびダイナミクスとフォノンモードとの関連性に興味が持たれる。さらに、この実験に成功すれば、分子性導体への中性子非弾性散乱の応用の可能性が飛躍的に増大する。β'型塩では例外的に大量・大型の単結晶を用意できたが、通常の分子性導体ではこれほど大量の単結晶を準備することは現実的ではない。分子性導体への中性子非弾性散乱の応用を目指すには、50mg程度の単結晶の測定が必要であり、θ型塩はよい対象となりうる。また、パルス中性子とパルスミュオンの相補利用によるダイナミクス研究の可能性を探るため、過去に中性子非弾性散乱測定をした無機物量子スピン系のミュオンスピン緩和(μSR)実験は、施設側の機器整備が間に合わず実施が困難になったため、代替の量子スピン系物質について、6月に課題申請を行う。最終年度となる26年度は、本研究で実施した分子性導体の中性子非弾性散乱測定の結果を論文にまとめるほか、学会発表も行う予定である。
今年度生じた未使用額は、分子性導体の微小単結晶試料の軸方向を、ブラッグ反射を使わずに中性子ビームと平行にするための冶具製作、及び、国際学会参加のための旅費と参加費に充てる予定であった。しかし、平成25年5月に発生したJ-PARCの事故により、6月に予定していた実験が中止となり、再開のめどが立たなかったため、冶具製作を中止した。また、実験中止と事故対応のため学会への参加をとりやめたことにより、旅費と参加費が未使用となった。25年度にとりやめた分子性導体用の冶具製作および学会参加の経費、26年6月に開催される国際会議μSR2014(スイス)の旅費および参加費と、10月に開催される中性子施設の試料環境の国際ワークショップ(英国)の旅費および参加費に充てることとする。25年度に製作できなかった分子性導体微小単結晶試料用の冶具製作については、別予算で実施することを検討しているが、上記出張経費の残額があれば、部分的に、冶具の部品購入の費用に充てたいと考えている。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (3件)
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