研究課題/領域番号 |
23600015
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
渡邉 環 独立行政法人理化学研究所, 運転技術チーム, 先任技師 (30342877)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際研究者交流 / ヨーロッパ / アメリカ / 中国 |
研究概要 |
本研究の目的は、重イオンビームのDC電流を、非破壊で高感度に測定するビーム電流計を開発することである。現在、脳磁や心磁の測定に利用される超電導量子干渉素子SQUID (Superconducting Quantum Interference Device)をビーム電流計に応用したSQUIDモニターの開発を進めている。本研究では、超電導部に高温超電導体を用い、高温超電導体を冷凍機によって冷却しているため、装置はコンパクトになり、ランニングコストも大幅に低減する。既に完成したプロトタイプにおいては電流分解能が100 nAであるので、これを10 nAへ高感度化することが本研究の目的である。 今年度は、上記目的を達成するために、以下の研究を行ってきた。1、短冊状のMgO基盤上に、ブリッジ部だけのサンプルを作り、X線による結晶構造の解析および、臨界温度、臨界電流密度の測定を行った。X線回折の測定結果では、Bi2223の超伝導層を示すピークが得られ、臨界温度は107K、臨界電流密度は4000 A/cm2まで達成、という良好な結果が得られた。2、電流センサーのコイル部のモデルを銅材で作成し、SQUIDと電流ソースを使用して、期待される出力をあらかじめ測定した。3、超伝導体の剥離が起こらない、充分な強度があることが確認できたので、コイル型高温超電導電流センサーの作成に入った。4、一度目の焼成作業では、マスキングを行ったコイル部に、CIP後クラックが発生した。マスキングを用いない二度目の焼成作業では、筒の裏側に十分なブラストが行き届かなかったために、剥離が生じた。裏側の超伝導材を全て除去した後に、再度塗布して焼成作業を行った結果、製作に成功し、超伝導性の確認も行った。一度焼成した高温超伝導材の上に、再度高温超伝導材を塗布焼成し、超伝導性が得られた前例がなかったため、大きな成果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
短冊状のMgO基盤上に、ブリッジ部だけのサンプルを作り、臨界温度、臨界電流の測定、およびX線による結晶構造の解析では、良好な結果が得られた。しかし、実際にコイル型高温超電導電流センサーの作成に入ると、高温超伝導材のクラックや剥離の問題が起こり、その原因究明には時間を要した。しかし、クラックが生じた原因は、マスキングを行ったことによって、CIPの際に端部に無理な力がかかっていた、ということが判明した。また、高温超電導材とMgO基盤の密着性を上げるために、サンドブラストを施すことにより、MgO基盤の表面を粗くしている。しかし、高温超電導電流センサーの筒の裏側へはノズルが入りにくく、サンドブラストの施行が不十分だったため、剥離の問題が生た。しかし、サンドブラストのノズルの入れ方を改良することによって、この問題を解決できた。これらの研究開発により、クラックや剥離の問題は、クリアできたと考えているので、コイル型高温超電導電流センサーの開発研究は、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
製作に成功したコイル型高温超電導電流センサーは、プロトタイプのものと入れ替え、再組み立ての後に、冷却を開始した。しかし、電流ソースを用いたSQUIDの出力測定結果では、プロトタイプの1/4の出力しか得られなかった。現在、この原因究明を行っており、以前この研究を行っていた、Naional Physical Laboratory (London)のDr. Haoと連絡を取っている。Dr. Haoの論文によると、高温超電導電流センサーのコイル部のインダクタンスが、自己インダクタンスより小さくないと、超伝導電流のバイパスが起こってしまい、出力の低下を招く、と述べられている。有限要素法を用いた静磁場計算プログラムOpera 3Dを用いた計算では、確かにコイルのインダクタンスのほうが大きいという結果が得られた。今後、SQUIDの信号レベルを改善するため、コイル部のインダクタンスが小さくなるように設計を行い、その設計に基づいて超伝導センサーを再度製作する。 また、電流分解能を上げるためには、S/N比を改善することが重要で、信号レベルを上げる努力と同時に、環境ノイズのシールド強化を進めることも重要である。SQUIDモニターの出力と、超伝導シールド、及び三重のパーマロイシールドを施した理想的状態のSQUIDの出力を、それぞれ測定した。この測定結果の比較によれば、まだ10~20 dBのシールド改善の余地があることが解った。今後、SQUIDフォルダーを、低温でも透磁率が高いamuneal材を用いて作成し、シールドを強化することを検討している。この設計も、有限要素法を用いた静磁場計算プログラムを用いて行ってゆく。
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次年度の研究費の使用計画 |
この研究の予備調査は、仁科加速器研究センターの予算により、平成22年度から始められていた。この予備調査で得られた結果に基づき、科研費の予算を使用して、実機の高温超電導電流センサーを製作することを予定していた。しかしながら、東日本大震災の影響で、製作を依頼していたTEP社にも、電力不足回避のための夏季使用電力節電要請が通達され、納品が大幅に延期された。その結果、平成23年12月26日に予備調査用の製品が納入され、平成23年度の科研費予算は未使用に終わった。 しかしながら、この予備調査によって大きな問題点は解決され、製法も確立された。平成24年度は、高温超電導電流センサーのコイル部の設計を、静磁場計算コードを用いいることによって行い、実機の製作を行う。また、磁気シールドの強化を図るために、磁気シールドボックスを製作する予定である。これらの製作のために、平成23年の未使用分と平成24年の度請分を合わせて使用する。
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