研究課題/領域番号 |
23601006
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
古田 真司 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (90211531)
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キーワード | 学校保健 / 不定愁訴 / レジリエンス / セルフエスティーム / 学校適応感 / 過敏性腸症候群 / 自律神経 / 健康情報リテラシー |
研究概要 |
本研究は、様々な社会的背景により、児童・生徒に急増している心身愁訴(いわゆる不定愁訴)に対して、教育保健の立場からその実態を明らかにし、さらに継続的かつ積極的介入によって、その改善策を提案しようとするものである。 本年度は昨年度に引き続き、不定愁訴の背景となる、児童のこころの健康に関する調査研究を行い、その結果を論文としてまとめた(小学生のレジリエンスと対人ストレスコーピングおよびセルフエスティームの関連)。さらに、学校行事が生徒の自己効力感や学校適応感に与える影響を検討し、本年度は体育大会前後での変化を、もともとの自己肯定感(セルフエスティーム)の違いによる差を中心に検討して論文にまとめた(体育大会が中学生の自己効力感や学校適応感に及ぼす影響についての検討)。この知見は、学校行事など通して児童・生徒の不定愁訴低減に結びつける試みの1つとして実施した。 さらに、今後の学校現場で不定愁訴に関連する保健指導や保健教育を実施する方向性を検討するために、今後必要となる「健康情報リテラシー」に関するレビューを行った(保健指導で教員に求められる健康情報リテラシー)。 一方、生徒の不定愁訴を生む代表的な疾患として「過敏性腸症候群」をとりあげ、自律神経機能評価値を測定する器機などを用いて、その疑いがある女子学生の特徴を明らかにする調査を行った(女子大学生におけるIBS(過敏性腸症候群)傾向と月経周期に伴う自律神経機能の変化との関連)。この知見は今後、不定愁訴で保健室に来室する児童・生徒への対応を、自律神経機能から検討する際の基礎資料とする目的で実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、まず、不定愁訴を持つ児童・生徒の心理・社会的背景を、いくつかの調査によって明らかにし(心理・社会学的アプローチ)、同時に、児童・生徒の自律神経機能を継続的に調査・測定してくことで、学校現場での児童・生徒の実態を明らかにする(医学・生理学的アプローチ)。その後、これらの成果を生かして、児童・生徒が自分たちの健康を見つめなおすことができる教材を作成して指導する等、不定愁訴が蔓延する学校現場へ積極的に介入し、有効な改善策を提案すること(教育保健学的アプローチ)を最終的な目的として計画している。 本年度は、昨年度に引き続き心理・社会的アプローチとして研究を行い、2つの研究論文と2つの学会発表の形でまとめた。そこでは、レジリエンスとストレスコーピングの関連、体育大会等の学校行事が中学生の学校適応感などに及ぼす影響の検討を行った。学校行事が自己効力感や学校適応感に及ぼす影響は、誰にとっても同じではなく、生徒の個人ごとの特徴に会わせて行事の意味を検討する必要があることが明らかとなった。 さらに、医学・生理学的アプローチとして、大学生を被験者として非侵襲的な器機(指尖脈波)を利用した自律神経機能評価値とIBS(過敏性腸症候群)の関連を検討した。これは学校現場(たとえば保健室)での応用を視野に入れた研究で、非侵襲的な器機の使用により、不定愁訴をより客観的に見ることで、自己コントロールができるようなる可能性を探る研究である。これらの知見を今後、最終的な研究として示す予定の教育保健学的アプローチの具体的方法に繋げたい。以上から、本年度の達成度は、概ね計画通りに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、科学研究費補助金により購入した、データ分析のためのソフトウエアや自律神経機能を測定する加速度脈波分析装置およびそのソフトウエア等によって、「医学・生理学的アプローチ」に関わる実験を行い、代表的な児童・生徒の不定愁訴の1つである腹痛や下痢の大きな要因である「過敏性腸症候群」について、その傾向がある学生とそれ以外の学生の自律神経機能等を比較することで、不定愁訴と自律神経の関係をより明らかにした。 この知見を生かして今後、学校の保健室来室者に対する自律神経機能の継続的な観察により、不定愁訴の自己コントロールに繋げうる研究を計画中である。4年計画の3年目であり、当初の計画通り、第2のアプローチである医学・生理学アプローチから、第3のアプローチである教育保健学的アプローチに移行する予定である。 なお、その際の保健指導や保健教育に必要なら方法論を文献的にまとめ、「健康リテラシ-」と「健康情報リテラシー」の重要性を検討していく。これらの概念を取り込んだ保健教育の実施が最終的な目標となる。こうした、いくつかの研究をあわせた総括的検討に進みたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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