研究概要 |
外界の環境を感知し,円滑なコミュニケーションを営むためには,特に視覚と聴覚の連動(視聴覚相互作用)が重要である.自閉症スペクトラム(ASD)では知覚レベル・知覚統合の障害によりコミュニケーション障害を生じている可能性が指摘されている.ASDは音や光などへの視聴覚過敏がある.本研究では視覚情報処理の生理学的基盤をもとに作成した視覚刺激と聴覚刺激を組み合わせた事象関連電位(ERP)により,健常者とASD(成人と学童)の視聴覚相互作用の脳内基盤(正常発達過程とその異常)を解明する.それにより,こども達が身体的・精神的に穏やかに暮らすことができる視聴覚環境づくりに貢献することを目的としている. 本年度は健常成人における視聴覚相互作用の脳内基盤の検討を行った.視覚刺激は放射状optic flow(OF)運動刺激,聴覚刺激は純音を使用した.1)加速するOF運動 + 増幅する音(車がスピードを上げると,風の音が強くなる→調和), 2)加速するOF運動 + 減衰する音(不調和), 3)減速するOF運動 + 増幅する音(不調和), 4)減速するOF運動 + 減衰する音(車がスピードを落とすと,風の音が弱くなる→調和)の刺激をランダムに呈示し,EGI社製128チャンネル高密度脳波計を使用し,ERPを記録した.得られたERP反応の分布・潜時・振幅の評価を行った.まだ例数が少なく,統計学的検討には至っていないが,調和刺激と不調和刺激間でERP反応の違いを認めており,本刺激で視聴覚相互作用の脳内基盤が検討できることが証明された.また,機能的MRI (fMRI)を用いて,OF刺激の脳内処理基盤も検討した.今後は例数を増やし,健常者とASD間でのERP, fMRI反応の違いを検討していく予定である.
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