研究課題/領域番号 |
23601011
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
恒川 元行 九州大学, 言語文化研究科(研究院), 教授 (70197747)
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キーワード | 第2言語としてのドイツ語 / 移民 / 就学前児童 / ことばの発達支援 / プレスクール |
研究概要 |
[1]今年度、「就学前児童を対象としたことばの発達支援」が、日本でも「プレスクール」という形で一部具体化されていることが判明し、その関係資料を調査・収集した(愛知県地域振興部国際課多文化共生推進室「プレスクール実施マニュアル」、およびプレスクール・モデル事業の報告書ほか)。 [2]この「プレスクール」は、愛知県西尾市、岐阜県可児市において小規模ながら実施されており、特に後者ではその「指導者養成講座」も開講されていたことから、その実態を調査した(岐阜県可児市多文化共生センター・2013年度多文化プレスクール指導者養成講座・第1回「日本語指導のイカさま・タコさま」、第3回「5歳児ができる事とことばの指導」、第4回「子どもの言語発達と人間形成~日本での育児に奮闘した経験を中心に~」;平成24年度文化庁委託「生活者としての外国人」のための日本語教育事業・地域日本語教育実践プログラム(B)可児市多文化人材育成推進事業「子育てに必要な日本語」 第7回講義「外国人の子どもの教育における課題」)。 [3]今年度はまた、「就学前児童を対象としたことばの発達支援」に直接関連するシンポジウムが相次いで開催されたことから、その参加を通じて、日本でのこの領域の研究・実践状況の把握に努めた(東海日本語ネットワーク・名古屋国際センター主催・日本語ボランティアシンポジウム2012年「二つの言語で育つ子どもたち-日本で子育てする親に伝えたいこと-」;東京学芸大学国際教育センター・第4回多文化共生フォーラム「多文化児童のことばと文化の獲得-幼児期の発達をとらえて」)。 [4]さらに、以上の過程でドイツ情報を目に見える形で提供する必要性が痛感されたことから、ドイツ語文献の翻訳に取り組み、一部は紹介も行った(リタ・ザンダー/リタ・シュパニアー『ことばの発達とことばの発達支援-教育的実践のための基本』2005ほか)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度は、【研究実績の概要】のとおり、[1]日本での「就学前児童を対象としたことばの発達支援」の具体化である「プレスクール」に関する資料の調査・収集、[2]愛知県西尾市、岐阜県可児市における「プレスクール」実施状況、また可児市における「指導者養成講座」の実態調査、[3]シンポジウム参加を通じた「就学前児童を対象としたことばの発達支援」に関する日本での研究・実践状況の把握などを行ってきた。 その過程でわかって来たことは、①日本での「プレスクール」に代表されるような動きは日本式の学校文化への適応を前提とした、小学校への就学準備という性格が非常に強いこと、②したがって、ことばの発達に真正面から取り組もうとするドイツの「就学前児童を対象としたことばの発達支援」とは大きく異なっていることである。この日独の違いが具体的に明らかになったことは大きな成果であり、それがわかってくるにつれ、ドイツの情報を目に見える形で提供できる具体的資料の必要性が痛感されるようになった。 そのため、[4]ドイツ語文献の翻訳にも取り組み、リタ・ザンダー/リタ・シュパニアー『ことばの発達とことばの発達支援-教育的実践のための基本』2005第1章の翻訳を紀要に発表したほか、これを日本の関係者に紹介した。さらには、より浩瀚な文献であるエーファ・ライヒャート・ガルシュハンマー/クリスタ・キーフェルレ(編)『幼稚園におけることばの教育』2011の翻訳も開始し、25年度前半を念頭に現在、作業を継続している。 以上のとおり、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
■[ドイツ語文献の翻訳・紹介] ドイツでは、移民背景を持つ市民の増加が続くドイツ社会の現状を反映して、「就学前児童を対象としたことばの発達支援」の実践のみならず、関連書籍の出版が活発である。しかし、ドイツのこの課題領域への取り組みや努力は、残念ながら日本ではまったく知られていない。同じ「ことばの発達支援」と言いながらも、日独の相違は、幼稚園文化、学校文化の相違とも深く関わり、これをことばで説得的に説明し、幼稚園等の現場に伝えることは容易ではない。そのため、今年度は第一の課題として以下2点のドイツ語資料(書籍)の翻訳紹介を行い、ドイツの取り組みにも関心を喚起するとともに、日本のこの分野での今後の展開に貢献したい:①リタ・ザンダー/リタ・シュパニアー『ことばの発達とことばの発達支援-教育的実践のための基本』2005第2章~5章;②エーファ・ライヒャート・ガルシュハンマー/クリスタ・キーフェルレ(編)『幼稚園におけることばの教育』2011。 ■[専門家・研究者とのコンタクト] 本研究にとって最大の課題は、日本の幼児教育研究者、また実際に幼稚園に勤務する保育者等との連携である。これは、上記翻訳の成否にも関わる課題である。このため、協力を求めることのできる関係者とのコンタクトを探ることが、今年度第二の課題である。コンタクトの対象にはドイツ語文献の著者・編者も含まれ、翻訳資料の内容に関する疑問点を解消するため、電子メール利用のほか、ドイツを訪問し、直接面会を求めることも視野に入れている。 ■[キーワード事典の作成継続] 上記ドイツ語資料2点を利用して、キーワード抽出・整理作業を継続する。これは、おもに今年度後半から最終年度にかけての課題である。24年度の成果である「名詞の重要性」に関わる知見に基づき、キーワードは名詞を中心とする。この作業は、翻訳用語の統一をはかる目的も兼ねる。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度の研究費は、【今後の研究の推進方策等:今後の研究の推進方策】に記述した3項目のうち、おもに第1項目と第2項目のために利用する。第1項目に関しては、特に翻訳を比較的短期間に完成させる目的で補助者を雇用するため、謝礼が必要である。第2項目に関しては、幼児教育専門家等とのコンタクトのための旅費や助言等への謝礼が必要となるほか、ドイツでの面会が必要となることを見込んでいるため、その旅費としての利用を考えている。
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