研究課題/領域番号 |
23601020
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研究機関 | 札幌学院大学 |
研究代表者 |
鈴木 健太郎 札幌学院大学, 人文学部, 准教授 (10308223)
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研究分担者 |
石黒 広昭 立教大学, 文学部, 教授 (00232281)
麻生 武 奈良女子大学, その他部局等, 教授 (70184132)
佐々木 正人 東京大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (10134248)
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キーワード | 言語獲得 / 言語環境 / 母子コミュニケーション / 生態学的記述 |
研究概要 |
本研究は、母子の物を介したやりとりを分析することで乳児の言語的体験要素を抽出し、その成果を言語とコミュニケーションスキ ル発達の生態学的基盤となる環境の記述に発展させることを目的としている。初年度の平成23年度に引き続いて、前言語期にある乳児と母親との家庭でのやりとり場面の発話と行為について観察調査した。対象母子3組の調査は、それぞれ乳児が6~24カ月齢のそれぞれの月に一回の計19回分を行う計画で、平成24年度末までに3組の母子について乳児24ヵ月齢までの調査を完了し、全て月齢でのデータを収集することができた。それと並行して、このうち一組の母子の縦断データについて二つの分析を行った。 一方の分析では、6~10カ月時の母子やりとりに「繰り返し生じる物の配置変化」イベントに着目し、積み木を「積み上げ」ては「崩す」イベントを抽出して詳細に検討した。いずれの月齢でも、母親が「積み上げ」た積み木に乳児が手で接触して「崩す」展開がほとんどであるが、「崩す」後の乳児の焦点が、「崩す」ことで生じた新たな物の配置に向かうことから、母親が再び「積み上げ」たものを崩すことへ移っていた。こうした日常的な母子やりとりの持続の変化が、乳児の言語獲得に如何に関わっているのかが今後の検討課題である。 もう一方の分析では、生後10~12カ月時の母子の相互行為過程を分析し、乳児の発声・発語を促進する展開パターンを抽出した。前年度に行った同じ母子の6~9カ月時の分析では、密着した母子一体の行為から、互いの身体とその動きが分離した行為へと移行が主な変化であったが、10カ月以降では、乳児の自発的な玩具操作に対して母親が手を出さすに言及する発話を行う場面などがあり、互いの行為の分離の延長上で相互行為に発話がからむ機会が増大することが示唆された。両分析の成果は、7月に開催された日本生態心理学会第4回大会で発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3カ年の研究計画のうち、平成24年度末までに前年度半ばに開始した母子の家庭での観察調査を完了する計画であったが、当初の計画通りに調査をすすめ、全てのデータ収集を完了することができた。分析作業では、本年度当初までに得られた生後10~12カ月のデータをもとに、母子のやりとりに関する二種の様相、すなわち、「発声・発話と行為の展開」と「やりとりに伴う物の配置変化」について、それぞれ分析を試み、その成果をまとめ、7月に開催された日本生態心理学会第4回大会において2件の学会発表を行うことができた。一方、「言語とコミュニケーションスキ ル発達の生態学的基盤となる環境」についての理論的検討については、収集した全データの分析結果をふまえる必要があり、その作業は、最終年度の平成25年度の大きな課題である。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度末までに観察調査による縦断データの収集を完了し、それと並行して、初期に収集したデータをもとに試行的分析の成果も蓄積した。平成25年度には、これまでの試行的分析で発展させた知見と手法を基礎に、乳児の6~24カ月齢時のデータ全般について本格的な分析作業をすすめる。分析作業には、謝金・人件費を活用して、調査や分析に必要な人的補助を得ながら推進する。平成25年度前半に、生後6~24カ月の観察データを分析し、研究組織メンバー間の検討を経てその成果を学会発表する。データの集積と分析の進展にあわせて、適宜、研究組織メンバーとの研究会合を開き、理論的検討を行い、研究とりまとめをすることを目指す。 「次年度使用額」は、主に以下の二点により生じた。一つには、観察調査によるデータ収集のための人的補助を確保して調査を完遂することに傾注したため、分析作業への人的補助のための謝金・人件費を使用しなかった。もう一つには、試行的分析の結果をみて、全期間のデータの分析から得た成果が理論的検討に資すると期待し、理論的検討のための研究会合を先送りしたため、それに関わる旅費を使用しなかった。これらは、平成25年度における分析作業と理論的検討を大きく推進するために活用する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
消耗品費: 集積した観察データの保管に必要なストレージ機器の購入、および、分析の進展による研究成果の発表準備に必要な機器の購入のために、計95千円をあてる予定である 。旅費: 研究組織メンバーによる研究会合や研究会の開催に必要な旅費に計735千円をあてる予定である。謝金: データ整理等を支援する人員に支払う謝金・人件費に40千円をあてる予定である。その他:研究組織メンバー間の連絡用の郵送費、会合時の資料コピー費に30千円をあてる予定である。 平成24年度収支で生じた「次年度使用額」1240千円については、研究会合・研究会を積極的に開催して分析結果の検討や理論的検討を推進するために上記旅費に加えて700千円を、また、データ整理等を支援する人的補助を得て大量データの分析作業を推進するために上記謝金額に加えて540千円をそれぞれあてる予定である。
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