当該研究は、前精神病状態にある子どもの基底障害および病態システムを解明し、リスク群の子どもに対しては発症予防と早期治療のための医療的アルゴリズムを、正常群の子どもに対しては個々の心理行動特性を踏まえた環境調整の在り方を提案することを目的とした。このため、まず子どもの基底障害階層モデルを完成させ、この階層モデルを基盤に精神病発症予防・早期診断・早期治療アルゴリズム・環境調整などの包括的介入モデルを構築することを計画した。具体的にはCBCL(子どもの行動チェックリスト、Achenbach)を用いて、20歳代の統合失調症外来患者群および20歳代正常群を対象に遡及的なアンケート調査研究を行い、統合失調症の児童期早期(6~8歳)におけるサブクリニカルな行動・心理特性を明らかにし、子どもに特有の基底症状を同定した。その結果、統合失調症の児童期早期には既にサブクリニカルな心理・行動特性(ひきこもり傾向、不安・抑うつ、極端な対他者攻撃性欠如など)が存在することが明らかになった。CBCLの8つの下位尺度を用いた判別分析では、hit-rate 82%(交差妥当化済み)で両群が正しく分類され、この判別関数を利用したアルゴリズムで統合失調症リスク群を児童期早期にスクリーニングするツール(PCソフトウェア)を開発できることが明らかとなった。また、この統計学的研究結果と最新の生物学的知見を合わせて、子どもの基底障害階層モデルを作成した。この階層モデルを基盤にして、リスク群および正常群のすべての子どもを対象としたメンタルヘルス向上のためのさらに精緻な包括的介入モデルの構築を計画している。
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