研究課題/領域番号 |
23601026
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研究機関 | 京都文教大学 |
研究代表者 |
長野 真弓 京都文教大学, 臨床心理学部, 准教授 (10237547)
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研究分担者 |
熊谷 秋三 九州大学, 健康科学センター, 教授 (80145193)
足立 稔 岡山大学, 教育学研究科, 教授 (70271054)
島田 香 京都文教大学, 臨床心理学部, 講師 (60583333)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | メンタルヘルス / 体力 / 身体活動量 / 児童 |
研究概要 |
近年、子どもの体力は、学力やメンタルヘルスとの関連が報告されるなど、子どもの能力向上や健全な発育・発達に不可欠な因子であることが報告されているが、加速度計により定量化された日常の身体活動量とメンタルヘルスとの関連性を検討した報告は皆無である。さらに、重要な環境因子であるソーシャルサポートや保護者の生活習慣などについても調べ、本研究課題では、小学校児童における体力に加え、加速度計により定量化された身体活動(不活動)量と標準化された質問紙により調査したメンタルヘルスとの関連性を調査し、子どもの健全な心身の発育発達、ならびに学力向上のための基礎資料を得ることを目的としている。 平成23年度は、すでに調査の承諾が内定していた岡山県地方都市郊外の小学校において、予定通り調査を実施し、児童の実態ならびに解析結果の一部を小学校に報告した。主な結果として、文部科学省の新体力テストにおける低体力群(評価D・E)に属する4~6年生の男子児童において、抑うつ症状や無力感が高い、欠席日数が多いなど、心身の状態が良好でない児童の出現率が、体力評価C以上の群よりも約4~5倍高いことが明らかになった。さらに、4・5年生の男子児童では、外遊び時間やスポーツ教室など、身体活動の時間とメンタルヘルススコア(身体症状・抑うつ・無力感)との間に負の相関が認められたのに対し、6年生においては、運動時間と上記スコアが相関していた。その背景として、小学校高学年児童のスポーツ教室の時間が4・5年生に比べて極めて長いことが考えられ、過度に長いスポーツ教室の参加も心身のコンディションを損ねる可能性が示唆され、これらの成果をまとめた調査報告書を本学紀要にも掲載した。 一方、女子児童においては体力とメンタルヘルスとの間に関連が認められず、親子の生活習慣や保護者の養育意識、ソーシャルサポートとの関連を検討する必要が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、小学校児童における体力・身体活動(不活動)量と標準化された質問紙とメンタルヘルスとの関連性を検討することを主な目的としている。平成23年度は、すでに調査の承諾が内定していた岡山県地方都市郊外の公立小学校において予定通り調査を実施し、体力、加速度計を用いて測定した身体活動量、メンタルヘルス、親子の生活習慣、養育意識の実態を小学校に報告した。さらに、体力とメンタルヘルスとの関連性を解析した結果、低体力群にメンタルヘルスが良好でない児童の割合が高いことが明らかになっており、その成果を学会発表や調査報告書として公表した。 一方、身体活動量に関しては、授業やスポーツ教室等で指示された結果としての身体活動量ではなく、自由時間における自発的な身体活動量とメンタルヘルスとの関連を検討すべく、登校時から下校時までのデータのうち、昼休みなどの自由時間中の身体活動量を抽出する作業を進めている。本年度夏季を目標に解析を進め、身体活動量と様々な調査項目との関連について、改めて小学校に報告する予定である。 さらに、当初は昨年度後半に、都市部の私立小学校においても調査を実施すべく交渉を進めていたが、学校側の都合により次年度前半での実施で学校側の正式な調査の承諾を得た。その後、調査の意義を全教員で共有するための研修会や、保護者会における保護者への説明などを経て、上記調査項目に加え、学力テストの成績を解析に使用する同意を得ており、5月中旬より調査を開始する予定である。 以上のごとく、調査スケジュールに若干の変更が生じたものの、特段の問題もなく、概ね申請時の予定通り研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の今後の推進方策として、以下の3つの課題の検討を予定している。課題(1)として、客観的に評価された体力・身体活動量と心理的因子との関連性を検討する。現在、学校で実施されている体力テストは、調整力を含めた走・跳・投の能力を評価するパフォーマンステストに該当するため、体力もさることながら、テストに対する意欲や動機付けが反映されやすいと考えられる。一方、日常身体活動量に関して、その実態に関する情報は極めて少ないばかりか、心理的因子や学力など、身体関連以外の指標との関わりを検討した報告も皆無である。本研究では、体力のみならず、自発的な身体活動量と心理的因子との関連性を明らかにしたい。なお、心理的因子については、心理的ストレス、ストレッサーといったネガティブな指標のみならず、意欲、ストレス対処能力など、ポジティブな指標についても調査し、より多面的な検討を試みる。課題(2)では、体力・身体活動量と心理的因子に影響する因子を探索する。子どもの行動・心理に強く影響すると考えられる保護者の生活習慣、保護者の養育意識、ソーシャルサポートなどの社会的因子についても調査し、課題1の関連性に影響を及ぼす可能性が高い因子を明らかにする。課題(3)として、体力・身体活動量・心理的因子と学力(あるいはその代替指標)との関連性を検討する。子どものパフォーマンスの1つとして教育界の関心が高い「学力」と、体力・身体活動量ならびに心理的特性との関連性を、保護者の同意を得て検討する。学業成績のデータ以外にも、欠席日数、メンタルヘルス質問紙の下位尺度項目である主観的な学業の出来・不出来感も併せて調査し、近年のトピックとなっている体力と学力との相関に考察を加える。 上記課題により得られた横断的データをもとに、将来的には長期的な追跡研究につなげていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
現在の研究の進行状況を踏まえ、今年度いっぱいは両小学校への報告や結果シートの個人返却など、各フィールドへのフィードバックを行うとともに、本研究課題の後に続く新たな研究課題として、数年間の前向き調査や児童の体力や意欲・気力を高めるための学校を挙げての取り組みの実行可能性について、小学校と交渉する予定である。次年度は本研究課題の最終年度であるため、調査データを統合して詳細な解析を行い、学会発表や原著論文等、公表のための作業に充てる。 具体的な使用計画として、23年度に予定していた調査スケジュールが学校行事の都合で次年度(5月中旬)にずれ込んだため、23年度に計上していながら使用されなかった調査補助の人件費や物品費を、本年度に実施される調査に必要な費用と併せて使用する予定である。本年度は、身体活動量の測定に使用する加速度計や調査用紙の準備など、大量の実務が発生するため、調査補助のための人件費に研究費の大部分を使用するとともに、調査フィールドへの報告や学会発表のための出張費、調査にかかる消耗品やプリンタ購入に一部を充てる。さらに来年度は、成果発表のための学会参加費・旅費や、論文執筆にかかる諸費用など、最終年度として研究を総括するための費用の計上を予定している。
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