研究課題/領域番号 |
23602007
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
竹下 徹 信州大学, 理学部, 教授 (70154995)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | PET / TOF / DOI / LFS / MPPC |
研究概要 |
次世代PET開発の第一弾の目標はTOF-PETの最高性能とその検証である。平成23年度には、無機シンチレータLFSと半導体光検出素子MPPC-1600ピクセルを2セット用いた組み合わせで測定最小ユニットを構成し実験を行い、時間分解能100psを記録した。この値は今まで論文に発表された170psを上回る世界最高の記録であり、目標を達成できる素子の組み合わせを手に入れたことになる。理想的な条件における時間性能であるが、次世代PETの信号処理回路に対して制約をつける事とも成る重要な成果である。またこのシンチレータと光センサ-MPPCの組み合わせで最高の時間性能を発揮できる事を実証した意義は大きい。 シンチレータ形状として位置分解を1mm程度にするために導入した3mm x 3mmの断面のシンチレータ内部での光の伝搬が大きな寄与をしていると考えられる。LFSの密度は7.4g/cm3と大きく屈折率も大きいため形状による光の全反射が効いていて一番速く光センサーに到達する光の個数を稼ぐ形になっているものと推測される。この成果を論文としてまとめて現在投稿中である。次のステップはDOI (Depth Of Interaction)の検証である。このために3x3のユニットから成るシンチレータとMPPCのセットを4個製作し、各2層に積層して、実験を企画している。光センサーMPPCが36個使用されており、おのおのの基本性能(ブレイクダウン電圧や増幅率、およびノイズレートなど)を測定して、現在システム全体の調整中である。次年度に掛けてDOI性能の実質的な実験検証を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の当初の計画は、シンチレータと光半導体1対からなる最小測定ユニットを3x3のマトリクスに拡張し性能検証を行う事である。実際は1個同士で作った測定最小ユニットの性能で世界最速の時間性能を発見したため、この性能の理由の探索のために実験を繰り返した。また多くの光半導体の種類の中でも今使われているものが最速の性能を発揮する理由を求めて実験を基本に立ち返り検証した。実際1mmx1mmの受光面を持つ光半導体は受光量としては3mm x 3mmの半導体の1/9であるにもかかわらず、時間性能に差が認められたことに大きな問題が詰まった。多種の光センサーの比較においてその差は小さくガイガーモード特有の時間分解能という理解に落ち着くのに多大な研究努力が必要であった。このため回り道に時間をかけたが、当初の計画の通りの企画設計が最高性能を引き出すことを確かめたため、装置の製作を行った。ここまでは計画通りである。また製作では一気に複数モジュールを製造しているので、目標を上回った、しかしシステムの検証という点では1個1個の性能テストに留まり複数個のマトリクスを扱う際の問題にはまだ直面していない。このためある点(製作面)では進展状況は計画以上であるが、システム技術成熟という点においては不十分である、両者の間でおおむね順調の判断となった。
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今後の研究の推進方策 |
24年度の計画は複数のマトリクスによるDOI性能の実験検証が研究計画であり、その通りDOI-PETにおける性能の向上を実際に確かめる事が24年度の計画である。またさらに次年度でCompton-PETをOFF-line データから検証する事が本研究の最大の目標であり、24年度のDOIが達成されれば、多層構造化と相まってデータ解析によりCompton-PETの優位性が証明できる可能性がある。一方データ取得システムの構築の方式によっては時間分解能の性能が同時には利用できない可能性があり、注意が必要である。また23年度に回り道であった光半導体の選択に関しても最良の組み合わせを取った理由が明らかになったため以後の研究で議論を蒸しかえす事なくスムースに実験システムの構築実験検証に邁進できる環境が整った。従って本研究申請の通りに進めて行けばDOI-PETからCompton-PETに至る次世代PETで要求される諸問題をことごとくクリアできると想定される。ただ資金面で時間性能の最高値とDOI性能を両立する性能の読み出し電子回路を備える事は困難なため、部分の性能検証となる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度(平成24年度)はDOI-PETの実験検証が主たる任務である。現行PETの抱える問題の一つに装置の縁偏での位置分解能の劣化問題がある。これを解決する方策としてDOI-PETが導入される。従って、実験では複数のマトリクス間のデータを取得し、種々の角度や位置関係で測定することになっている。その結果、ガンの位置によらず位置分解能が一様であること、すなわちDOI-PETの性能を実験検証する。このような測定の系統的な精度を向上させるためには、測定装置の回転や移動にともなう機械的精度が必要である。従って資金の投入に関しては、多数の読み出し電子回路を備える事を抑え、高い位置精度を再現できる装置の導入により対応が可能である。限られた資金内でこれをどう乗り越えるかが問題がである。とはいえ、計画の実現のための機械的精度を守りながら資金のなかで読み出し回路を押さえて構成する予定である。特に高速時間分解能を備えた電子読み出し回路はここでは導入しないと判断せざるおえない。
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