拡大照射法を用いた炭素線治療時の不要な被ばくは、標的腫瘍の直近傍の臓器においては、炭素線が原因となる事が多いが、少し距離が離れた臓器への被ばくは、炭素線と照射野形成装置との相互作用により発生する中性子が主な原因であるという報告がある。本研究では、照射野形成装置にコリメータを設置することで、中性子被ばくを低減することを目的とした。 放射線医学総合研究所にある炭素線治療装置HIMACの照射野形成装置をモデルとして、モンテカルロシミュレーションにより研究を進め、前年度までに照射野形成装置の中流にアルミ製コリメータを設置して、炭素線のエネルギー、照射野条件を適宜変更して、患者位置での中性子1cm線量当量をそれぞれ計算した。 本年度は計算精度を高めた上で、アルミ製コリメータの位置を上流、下流に変更した場合、さらに材質を鉄、タングステン、ニッケル、アクリルに変更した場合における、中性子1cm線量当量を計算した。 位置の変更に関しては、中流での設置が最も線量当量の低減効果が高く、最大35%程度の低減効果があった。上流では、一様照射野が十分には形成されておらず、炭素線の遮蔽効果が十分でなく、下流では患者位置に近いため、発生する中性子が患者位置に集中することが考えられる。 材質の変更に関しては、鉄、ニッケルはアルミに比して線量当量の低減効果で5-10%程度改善されることが分かった。 照射野形成装置に既に配置されているコリメータの開口幅を、中性子被ばくの低減を考慮して再設計すれば、拡大照射法を用いた炭素線治療において、中性子による被ばくを最大40%程度低減しうる可能性が示唆された。また、本手法は陽子線治療にも適応しうる方法である。
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