研究課題/領域番号 |
23603002
|
研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
小笠原 渉 長岡技術科学大学, 工学部, 准教授 (40292172)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 糸状菌 / 比較ゲノム解析 / セルロース / セルラーゼ |
研究概要 |
これまでに申請者が進めてきたトリコデルマ・リーセイのセルラーゼ高生産変異株系統樹の比較ゲノム解析から、アミノ酸変異をともなう変異遺伝子を数十個同定している。変異株の中でPC-3-7株はセロビオース、ソルボースを誘導炭素源としたときに親株であるKDG-12株と比較して極めて高いセルラーゼ生産性を占めす。KDG-12からPC-3-7の間で生じた変異遺伝子は9個であり、そのうち転写調節因子をコードしている遺伝子に着目した。この転写調節因子は真菌でのみ見られるZn(2)-Cys(6)タイプDNA結合ドメインを有しており、この転写調節因子をコードする遺伝子の遺伝子破壊実験、変異箇所の回復実験を行ったところ、本因子はセロビオース(セロオリゴ糖)に応答して菌体内のβーグルコシダーゼ群の転写を活性化することが明らかとなり、本因子をBglRと名付けた。この成果は、学会で発表すると共に論文として発表した(Fungal. Genet. Biol. (2012) In press)。 PC-3-7で生じていた変異遺伝子のうち別の解析ターゲットとして菌体内βーグルコシダーゼ(BGLII)をコードする遺伝子の変異に着目した。これまで、トリコデルマ・リーセイにおけるセルラーゼの誘導発現において、セルロースから生じたセロビオースが菌体外のβ-グルコシダーゼの糖転移活性によって変換されたソホロースが最終的な誘導物質として働くと考えられていた。しかしながら、菌体内のβーグルコシダーゼであるBGLIIのセルラーゼ誘導における働きは全く明らかにされていなかった。そこでbgl2の破壊実験および変異回復実験を行った結果、復帰株はセロビオースを炭素源としたときのセルラーゼ生産性が低下したことから、セルラーゼ誘導生産にBGLIIが関与していることが明らかとなった。この成果は学会でも発表しており、現在論文投稿準備中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度において、これまでゲノム配列を決定してきたトリコデルマ・リーセイのセルラーゼ高生産変異株に加えて新たに4株のデータ加えることができた。ショートリードタイプのゲノムシークエンサーを用いたゲノム配列の決定についてはほぼ完了し1塩基多型を中心とした変異点の同定が完了した。この時点で、ある程度その機能が予想されるターゲット遺伝子に対して、予想24年度に計画していた遺伝子破壊、変異回復実験を前倒しで行い、トリコデルマ・リーセイのセルラーゼ生産性に大きな役割を果たす因子であることを明らかにすることができたことから本年度の達成度は大きいといえる。また、マイクロアレイによるトランスクリプトーム解析についても主要な変異株について完了し表現型とリンクさせたデータベースの構築を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
ロングリードタイプのDNAシーケンサーを用いて比較ゲノム解析からのSNPおよびIn/Del情報の精密化を図り、その情報と生化学的な表現型(遺伝子転写フロファイル、タンパク質生産性、炭素源資化能)とリンクさせてデータベース化する。このデータベースからタンパク質高生産化に関与すると思われる遺伝子(ターゲット遺伝子)を選定する。また、当初の研究計画には無かったが突然変異の導入によってセルラーゼ生産性が変化した変異株を多数取得してきており、これらのゲノム配列情報を明らかにしてデータベースに組み込んでいく。最終的に、野生株を用いてターゲット遺伝子の破壊実験もしくは変異株のゲノム変異点回復実験を行い、タンパク質の生産性からその遺伝子機能を評価する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
消耗品として、遺伝子操作試薬(特にシークエンサー用試薬およびマイクロアレイ解析用試薬)に大半の研究費を使用する予定である。また、本研究の成果を発表するため、学会参加費、旅費および論文掲載費用に研究費の一部を使用する。
|