研究課題/領域番号 |
23603002
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
小笠原 渉 長岡技術科学大学, 工学部, 准教授 (40292172)
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キーワード | 糸状菌 / 比較ゲノム解析 / セルロース / セルラーゼ |
研究概要 |
トリコデルマ・リーセイのセルラーゼ高生産変異株系統の中から,セロビオースやソルボースを炭素源とした時に標準株と比べて極めて高いセルラーゼ生産性を示すPC-3-7株に特に着目して解析を進めている.比較ゲノム解析から見出したアミノ酸変異をともなう変異遺伝子の中から,セルラーゼ高生産化に影響を与えると考えられる3つの遺伝子(β-グルコシダーゼ遺伝子BGLII,転写調節因子BglR,転写抑制因子Cre1)について,変異復帰および遺伝子破壊解析を進めてきた. 昨年度までの解析から,PC-3-7においてBGLIIの変異がセルラーゼの高生産に重要である事が示唆されていた.しかしながらPC-3-7株は標準株から6世代の突然変異処理を経た菌株であり,BGLII遺伝子以外の多くの変異の影響を受けていると考えられ,BGLIIのみの影響を正確に評価できていると判断することが困難であった.そこで,BGLII変異の真の影響を解析するために標準株のBGLII破壊および変異導入を行いセルラーゼ生産性に与える影響を解析した.その結果,標準株のBGLII遺伝子の変異によってタンパク質の機能が一部失われることが非常に高いセルラーゼ生産性をもたらすことが明らかとなった.変異型BGLIIの糖転移活性によってセロビオースから生産される物質がセルラーゼの誘導物質である可能性が強く示唆されたことから,どのような物質なのかメタボローム解析を進めている. BglRに関しては,変異のバックグラウンドが少ない標準株で遺伝子破壊の影響をトランスクリプトームの観点から解析を進めている.Cre1の変異に関しては、遺伝子の破壊解析および変異復帰解析の結果を論文として報告した(Biosci. Biotechnol. Biochem. 77(3), 534-543, 2013). これらの成果については,学会にて発表している(7件).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度において,これまでの比較ゲノム解析の結果からトリコデルマ・リーセイのセルラーゼ生産条件において大きな影響を与えている遺伝子を3個の遺伝子を同定するに至った.これにより,当初の計画であったタンパク質高生産化に関与する遺伝子の決定および機能評価を完了した.そのため本年度の達成度は大きいといえる. 現在,ロングリードタイプのDNAシーケンサーを用いたゲノム解析も進めており,変異株のゲノムデータの精微化を進めている.また,トランスクリプトーム解析と比較ゲノム解析をリンクさせたデータベースの構築を進めている.
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今後の研究の推進方策 |
ロングリードタイプのDNAシーケンサーを用いて得られたデータと,これまでのショートリードタイプのDNAシーケンシングデータを統合し,SNPおよびIn/Del情報の精密化をはかる.また,当初の研究計画には無かったが,トランスロケーションによるゲノム変異に関しても情報を取得する.このデータベースからタンパク質高生産化に関与する遺伝子を選定する。 また、これまで明らかにしてきたセルラーゼ高生産化に関与する遺伝子について、これまでは個々の変異の影響の解析にとどまっていたが,これらの変異の組み合わせがタンパク質生産性にどのような影響を与えるのかを解析する.そのため,マーカーリサイクル技術を用いた遺伝子多重組換え,多重破壊株を構築し,タンパク質生産性を評価する.
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次年度の研究費の使用計画 |
消耗品として遺伝子工学実験用試薬(ゲノム解析,トランスクリプトーム解析)に大半の研究費を投入する予定である.また,本研究の成果を発表するため,学会参加費,論文掲載費用に研究費の一部を使用する.
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