研究課題/領域番号 |
23610004
|
研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
吉井 美知子 三重大学, 国際交流センター, 教授 (30535159)
|
キーワード | フランス / 市民社会 / 子どもの保護 / アドボカシー / 大阪 / 福島 / 放射能 / ベトナム |
研究概要 |
市民社会による児童問題解決への可能性を探るため、9月16日―27日にフランスでフィールド調査を実施、多くの貴重なデータを集めることができた。その結果、フランスでは子どもの保護のために多くの市民社会団体が活動しているが、その多くが公的資金のみで政府の枠組みのなかで活動する団体であり、ファンドレイジングをまったく行っていない現状を掴むことができた。ところがそれでも、これらの団体が非常に強いアドボカシー機能を発揮できていることが明らかになり、驚きであると同時に大きな発見であった。 国内では2011年度に実施した大阪フィールド調査のフォローとして、4月と11月に2回の大阪調査を行った。同じ現場を回数を重ねて訪問することで理解が深まり、また12月には大阪の施設長をベトナムの同様の子どもの施設へ招いての交流も実施することができ、研究のみならず実務での成果も上げることができた。 また11月2日-4日にはフィールドを福島に移して予備調査を実施し、放射能からの子どもの保護について市民社会の貢献についてデータを得るとともに今後の方針を立てることができた。 以上の一国および国内二都市におけるフィールド調査に加え、東京、京都、大阪、桑名に頻繁に出張して、研究会、学会、セミナー、シンポジウム、フォーラム等に積極的に出席した。これにより研究に必要な知見を得るとともに、研究者間の人的ネットワークを構築することができた。 上述の研究成果は7月1日に東京の学会研究部会で、11月27日にはベトナムでの国際学会において、さらに12月1日には神戸での国内学会において、それぞれ口頭発表を行い、国内外に発信した。またフランス・フィールド調査の報告を紀要に発表した。学会や論文以外では、NPOや教職員組合における講演6本、雑誌・新聞記事執筆6本等を通して研究成果の社会還元を図った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3年計画のうちの第2年度にあたる2012年度において、研究はおおむね順調に進展している。 その理由として、第1年度にあたる2011年度に、ベトナムでの調査で当初の計画以上に研究を進展させると同時に、大阪での調査も非常に進んだ。このため3年間の研究計画に余力が生じ、国内調査フィールドを大阪だけではなく福島にも移して開始すると同時に、新たな比較対象を西欧先進工業国から選んだフランスに定め、フィールド調査を行うことができたことが大きい。 フランスでは、現地に共同研究者やコーディネーターを立てない純粋に単独の調査であったが、紹介者なしの飛び込みメールに市民社会団体の面々が非常に献身的に対応してくれたおかげで多くの貴重なデータを得ることができた。わずか12日間、往復の移動日を除くと正味9日間の滞在と調査であったが、国内の4都市・地方を回り、全部で10の団体とその傘下の施設を訪問することができた。 このように第1年度にはベトナムと大阪の本調査、第2年度には大阪のフォローとフランスの本調査、そして新たに福島の予備調査を開始できた。フィールド調査を通してのデータ収集に関しては、予想以上に進展したと言える。 研究のアウトプットに関しては、第2年度の国際および国内学会発表各1本、そしてフランスフィールド調査報告の公刊を行ったことで一定の成果があった。論文がないのは残念であったが、これは年度内に講演6本、雑誌・新聞記事6本と、予想以上に多くの社会還元に精を出したためである。市民社会研究であるからには一般市民への成果還元は最重要であり、学術論文にならなくても、多くの市民に知らしめるという意味ではこれは決して否定的なことではないと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
第1年度から第2年度までに多くの成果を上げた。国際学会での発表2本、国内学会での発表3本、紀要報告の公刊が2本、講演9本、雑誌・新聞記事8本がそれに当たる。第3年度に当たる今年度は、これらをまとめ上げて出版したいと考える。 具体的には、まず10月に共著書1冊「アジアの市民社会とNGO ―貧困と格差の解消は可能なのか―」を晃陽書房より出版する予定で、現在執筆中である。この共著書は主としてベトナムでの研究成果を基にしている。これに日本国内での成果とフランスでの成果を加えた単著書も発表したいと考える。 同時に、市民への成果還元の一環として、雑誌・新聞記事の執筆や講演活動にも益々力を注いでいきたい。 第3年度は3年計画の総まとめの年であるが、同時に次の3年間へのステップアップの年でもある。取りかかったばかりの、福島における放射線からの子どもの保護と市民社会の貢献についての研究をより深めていきたい。そして年度内に国際学会2本、国内学会1本程度の発表を続けて、最新の成果の発信に努めたい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度は国際学会発表のため、8月にシンガポールへ、10月に韓国に出張する予定である。8月および9月にはベトナムで、現地調査のフォローを予定している。6月には国内学会で発表を行う。年度内を通じて大阪、福島等に調査のための国内出張を行う。これらの学会出席、調査のための出張旅費や関連費用を支出する予定である。 本科研費の研究のために2011年度より入会した学会・研究会が4件あり、これらの年会費を支出する。また研究テーマに関連した学会、研究会、セミナー、シンポジウム等に参加するための出張費・参加費を支出する。また調査に必要な文献、資料、書籍を購入するとともに、論文投稿に際し、外国語文校正のためにネイティブスピーカーを傭上する。その他、資料整理のための資材や消耗品を購入、必要に応じて整理を担当するアルバイトを傭上する。 さらに3年間の総決算として単著書を出版するため、その費用の支出を見込む。 以上のような項目により次年度は合計約140万円の直接経費の支出を計画している。これは、第2年度の経費に発生した10万円強の未使用額からの戻入を含んだ金額である。
|