世界の人々の間に極めて大きな経済格差が存在することは今日の世界における深刻な問題のひとつである。本研究では、世界的規模で見た所得分布の不平等と貧困度に関する推移を計量的に分析した。とくに貧困に関しては通常の絶対水準に基づく貧困分析だけでなく,世界的所得分布から見た相対的貧困率や、両概念を統合した新しい貧困概念を考案し、これらの概念に依拠した貧困率の水準とその推移について計測を進めた。本計測では、各国の実質所得に関しては、世界銀行が主導し調整した2005年国際比較プログラムの成果に基づいた世界開発指標に依拠している。各国の相対所得分布を(いわば)重ね合わせるためのスケーリングファクターとして一人当たりGDPを採用した場合には、1990年代以降今日に至るまでジニ係数やタイルエントロピー尺度で測った不平等度は減少傾向にあることが確認された。しかしながら、人々の経済的福祉の代理指標としてはGDPは不適切であると指摘する論者も少なくない。本研究では、ひとり当たり家計最終消費支出のほうが家計調査データに近いととするAnand and Segal(Journal of Economic Literature:Vol.46:57-59)による指摘を念頭において、スケーリングファクターとして一人当たり家計最終消費支出(HFCE)を用いた計測を併用した。HFCEに基づいた計測では、GDPに依拠した結果に比べて、ジニ係数・タイル係数何れの指標によっても不平等度は殆ど低下していないとする結果が得られた。貧困率の水準やその推移に関しても対照的な推計結果を得ている。
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