研究課題/領域番号 |
23610006
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
施 光恒 九州大学, 比較社会文化研究科(研究院), 准教授 (70372753)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 共生 / 人権教育 / リベラル・ナショナリズム / 日本文化 / 内観療法 / 政治理論 / 有権者教育 / 生活つづり方 |
研究概要 |
本年度は、ほぼ順調に研究を進めることができた。 英語圏におけるリベラル・ナショナリズムや多文化主義の政治理論の動向を参照しつつ、「共生」を考える上での理論的枠組みの探究を行った。 その成果の一つは、施光恒「リベラル・ナショナリズムの世界秩序構想――D・ミラーの議論の批判的検討を手がかりとして――」(富沢克編『リベラル・ナショナリズムの再検討』ミネルヴァ書房、2012年)として発表した。ここでは、リベラル・ナショナリズムの政治理論からは、「相互に積極的に学びあう、公正なる棲み分け型の多文化共生世界」が理想的政治秩序として導かれるはずだと論じた。日本文化に根差した共生理念を導き出す際に参照すべき理論的基礎をある程度準備できたと考えている。 加えて、本研究の一環として、平成23年12月15日には、九州大学箱崎地区において「シヴィリティをめぐる東西の対話――礼節、市民性、公共圏」というシンポジウムを開催した。池上英子氏(米国ニュースクール大学、歴史社会学)、木村俊道氏(九州大学、西欧政治思想)を報告者として、中野三敏氏(九州大学、江戸期の文学)、野々村淑子氏(九州大学、社会学)をコメンテーターとして招き、公開研究セミナー、およびパネル・ディスカッションを行った。西洋と比較しつつ、日本における公共圏や市民性の実践の展開について議論し、検討を行った。 このシンポジウムの記録は、『政治研究』(九州大学法学部)第59号(2012年)にまとめた。また、このシンポジウムで得られた知見の一部を用いて、施光恒「近代社会の基礎としての『翻訳』と『土着化』を通じた公共空間の形成」(京都大学COE論集、近刊)を執筆した。 そのほか、政治学分野のみならず、民俗学や日本的心理療法、社会心理学、教育学などの幅広い文献を収集し、日本の文化的文脈に適合的な「共生」の理念のありかたを探求した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書には、本年度に取り組むべき課題として、(1)理論的課題(「「共生」を考察する際の理論的前提となる新しいリベラル・デモクラシー理解の明確化」)に取り組むこと、および(2)実践的課題((「日本文化に根差した「共生」の理念を、学際的知見に基づき、探求し定式化するという課題」、および「日本の文化的文脈に親和性を有する「共生」の制度的枠組みを描き出すという課題」)に取り組んでいくための基礎となる資料収集や調査を行うこと、と記した。 上記のうち、(1)については、当初の予定以上に進展したといえる。「研究実績の概要」欄に記したように、「リベラル・ナショナリズムの世界秩序構想」、および「近代社会の基礎としての『翻訳』と『土着化』を通じた公共空間の形成」を執筆することができた。 (2)に関しては、ほぼ予定通りか、あるいは少々遅れているという進捗状況である。資料収集に関しては、民俗学や日本的心理療法などに関する文献(論文や書籍)を多数、収集することができた。また、日本法哲学会などが企画したオックスフォード大学教授D・ミラー氏来日記念セミナー(7月、於・関西大学)や、本学で開催したシンポジウム「シヴィリティをめぐる東西の対話」などで日本に根差した人権教育、あるいは公共圏や市民性の理念・実践についての情報収集や意見交換を行うことができた。ただ、時間的都合の問題などから海外での実地の資料収集はできなかった。 以上より、全体としてみれば、ほぼ順調に研究を進めることができているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
理論的課題に関しては、ひきつづきさらなる検討を進めると同時に、研究成果を積極的に発信していく。具体的には、本研究で「共生」を考察する際の基本枠組みであるリベラル・ナショナリズムについて、書籍のかたちでまとめていきたいと考えている。また、英文での発信も行いたい。 実践的課題については、今年度収集した民俗学や日本的心理療法、社会心理学に関する論文や書籍を読み込み、その背後にある日本人一般にとってなじみ深い自我観、人間の成長観、他者観、理想的な他者との関係に関する見方などを明らかにしていきたい。そしてそこから、日本文化に根差した共生の理念を考えていきたい。またその理念に適合的な人権教育や市民性教育のありかたを考察していきたい。 日本的心理療法については、文献資料だけではなく、専門家からの情報収集や研修施設の訪問、あるいは参加などを通じた調査も行いたい。 また、今年度から引き続き、地方自治体などの人権啓発活動や有権者に対する常時啓発活動の調査を行い、その背後にある日本で一般的といいうる人権観や民主主義観を明確化していく。さらに、米国など海外の人権教育の実践に関する資料収集も行いたい。 さらに、日本の伝統的な人権教育の手法である作文教育(生活つづり方教育)について検討し、その背後にある成長観、他者観を探求していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
引き続き、政治理論、民俗学、日本的心理療法、比較教育学などの文献収集を行いたい(図書費)。 海外(特に米国)の人権啓発活動の調査(旅費)、および国内での人権啓発活動や作文教育に関する調査、資料収集(旅費) 研究会での研究成果の報告、および意見交換(旅費)。 日本的心理療法(特に内観療法)の研修施設の見学、あるいは研修への参加。専門家からの聞き取りなど(旅費、謝金)。
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