研究課題/領域番号 |
23610006
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
施 光恒 九州大学, 比較社会文化研究科(研究院), 准教授 (70372753)
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キーワード | 共生 / 人権教育 / リベラル・ナショナリズム / 日本文化 / 内観法 / 政治理論 / 有権者教育 / 生活綴り方 |
研究概要 |
本年度は、「共生」理念や枠組みを考察するうえでの理論的前提となる自由民主主義理論の新しい理解についての研究、および日本文化に根差した「共生」理念の探求や定式化について主に研究を進めた。 前者は、昨年度までの研究の補足的研究を行った。人権などの自由民主主義の理念を根付かせる際に、母語による思考が果たす役割の重要性について特に焦点を当てた。 後者は、日本社会における人間の自我に対する見方、理想的な「他者とのつながり(関係性)」に関する見方、「公正さ」に関する見方などを、学際的に探究しようという試みである。後者に関しては、具体的には、昨年度から引き続き、主に地方自治体の人権啓発・教育資料の分析を進めた。また日本社会における暗黙裡の自我観や成長観、「共生」や「他者とのつながり」、「公正さ」の観念が読み取れる素材として、全国の人権作文集、ならびに全国読書感想文コンクールの過去の課題図書を収集し、その分析にも取り組んだ。日本の伝統的な作文教育である「生活綴り方」に関しても、その根底にある自我観や他者との関係性の想定について、各種文献や秋田大学の資料などを用いて分析を進めた。加えて、日本独特の心理療法といわれる内観療法や森田療法における自我観、成長観、「他者とのつながり」の見方についても、内観療法や森田療法の文献資料を集め検討した。特に、内観療法に関しては、3月に実際に、内観療法の施設を訪れ、専門家に話を伺うとともに、同療法を体験した。 小学校などでの実際の道徳教育、人権教育のありかたを考察することは、文献の上では調査を進めたが、実際に学校を訪れ、調査することは、25年度に行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
日本文化における自我観や「成長」や「成熟」、「他者とのつながり」についての見方をさまざまな学際的知見を用いながら抽出するという課題であるが、人権作文や啓発資料、読書感想文課題図書、内観法や森田療法などの資料を、多数収集したものの、分析が遅れている。また、内観法の調査や体験も、結局、今年度末になってしまい、それに基づく成果発表ができなかった。 遅れの理由は、著書の執筆など他の仕事のため、時間が十分に確保できなかったことである。 最終年度である今年度は、収取した資料やこれまでの調査をもとに、研究成果を学会や論文などのかたちで積極的に発表し、遅れを取り戻していく所存である。
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今後の研究の推進方策 |
日本文化における自我観や「成長」や「成熟」、「他者とのつながり」についての見方をさまざまな学際的知見を用いながら抽出し、日本文化に根差した「共生」理念を探求し定式化するという課題について、前述のとおり、資料収集や調査は一定程度すでに進んでいるので、来年度(25年度)は、積極的に学会、研究会で報告し、議論を深め、論文などの形にしていきたい。 小学校などの実際の人権教育や道徳教育、そのほかの自治体などの社会啓発活動の実践の調査、およびそこでの適用の方法についての考察は、25年度の大きな課題である。小学校などの協力を仰ぎつつ、人権教育、道徳教育の実際についての調査などを進めていくつもりである。 内観療法などの心理療法に関しては、引き続き、文献調査、および専門家からの知見の提供などを通じて、これまでの調査を深めていきたい。 また研究成果については、学会、研究会での報告と同時に、新聞や雑誌への執筆、地自体の講座などを通じて、積極的に社会的還元を行っていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
日本の心理療法に関しての専門家からの知見の提供(謝金) 小学校、地方自治体の人権教育、道徳教育、人権などの啓発活動などの調査(旅費) 研究会、学会での研究成果の報告、および意見交換(旅費) 英語論文の投稿、発表(外国語校閲費)
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