研究課題/領域番号 |
23610011
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研究機関 | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
竹島 正 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所精神保健計画研究部, 部長 (20300957)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 芸術諸学 / 医療・福祉 / 精神疾患経験者 / 美術活動 / メンタルヘルスプロモーション |
研究概要 |
本研究は、美術活動を生きがいとしている精神疾患当事者の人生と、その各段階において制作された作品を精神保健、美術の観点から観察し、その結果をもとに共生社会の実現に向けての啓発教育の資材を開発すること、また、開発された啓発資材を用いた啓発教育を実際に行い、その評価を行うことを目的とした。平成23年度は、国立精神・神経医療研究センター倫理委員会において本研究実施の承認を得た。次に、全国精神保健福祉連絡協議会の保有する精神疾患当事者の芸術作品情報(作品画像、作者名等)を同協会のHP上に掲載することに同意した精神疾患当事者、または本研究の共同協力者を通じて協力を依頼できる精神疾患当事者のうち、(1)成人である者、(2)作者の人生と精神疾患の経験におけるよろこびや悲しみを作品の変化から捉えうると精神保健、美術の専門家が判断した者、(3) 本研究の目的を達成するだけの作品量と制作期間を有すると思われる者に対し、訪問による聞取り調査の協力を依頼した。協力依頼は19人に行い、このうち14人の聞取り調査を終了した。調査終了後に同意撤回の連絡があった1人を除く13人の年齢は、20代1人、30代2人、40代8人、60代1人、70代1人で、性別は、男9人、女4人であった。 経験してきた精神保健の問題は、統合失調症、双極性障害、広汎性発達障害、心的外傷後ストレス障害、ダウン症等であった。精神疾患当事者からは制作活動のもつ意味として、苦しい時を潜り抜ける支え、自分らしさの表現の機会、制作活動をとおしての対人関係の広がり、作家となることへの希望等が語られた。また、制作活動を支えてきたものとして、家族の理解、本人の制作活動とその作品を理解する他者の存在が語られた。以上の調査結果を踏まえ、今後の調査および24年度以降の啓発資材(案)作成に向けての示唆について考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度中に聞取り調査の受諾者が20名程度になるまで協力依頼を行い、聞取り調査後の個別報告をまとめる予定であったが、(1)倫理審査の承認までに時間を要したこと、(2)全国精神保健福祉連絡協議会を経て、本人から面接の同意を得るまでに時間を要したこと、(3)精神保健と美術の2名の専門家による聞取り調査の訪問日程調整が困難であったこと、(4)平成23年3月11日の東日本大震災により、研究代表者が被災地支援に時間を割く必要があったこと等の理由により、現在までの達成度はやや遅れている。24年度には、当初の計画に達するよう、研究計画を調整して進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
(平成24年度)啓発資材(案)の開発平成23年度中に予定していた聞取り調査を引き続き実施するとともに、聞取り調査後の個別報告のまとめを作成する。それを元に、精神疾患当事者個々の人生と精神疾患の経験、よろこびや悲しみと作品の変化などについて、展覧会形式で示すことのできる啓発資材の一次案を作成する。この一次案は、精神保健専門家、美術専門家等による意見交換や、精神疾患当事者の意見を得た上で、 啓発資材(案)としてまとめる。(平成25年度)啓発資材(案)に基づく啓発教育の実施と評価平成24 年度に作成した啓発資材(案)を使用した啓発教育を、高校、大学、市民学校等で試行し、参加者へアンケート調査(性別、年齢、職業、精神疾患の理解、精神保健および芸術への関心、プログラムの評価、意見・感想などを訊ねる)を行い、啓発資材(案)の評価を行う。参加者へのアンケートの分析は、個別項目の集計分析に加えて、多重コレスポンデンス分析、自由回答のテキストマイニングを行う。さらに、精神疾患当事者による芸術活動の発展に寄与するよう、研究成果を社会に発信していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
聞取り調査にかかる旅費(15万)、共同研究者の研究協力(聞取り調査後の報告をまとめる作業、打合せ出席など)にかかる旅費(京都-東京 3回、北九州-東京 1回 20万)、共同研究者が意見交換会に出席するためにかかる旅費(1回 30万)等の旅費が見込まれる。その他、共同研究者及び、聞取り調査に協力した精神疾患当事者との連絡等にかかる通信運搬費、精神疾患当事者の研究協力に対する謝品費、啓発資材の一次案、啓発資材(案)の製作費、共同研究者へ研究協力に対する謝金、消耗品費等が見込まれる。
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