研究課題/領域番号 |
23611021
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
鶴野 玲治 九州大学, 芸術工学研究科(研究院), 准教授 (10197775)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | コンピュータグラフィックス |
研究概要 |
本研究の目的は、水や風のような美しい流体のパターンをCG(コンピュータグラフィックス)でリアリスティックかつ自由に生成し、さらに制御や編集加工できるようなモデルを生成することである。流体としてのリアリティの改良と、操作系の実現のための処理方法の効率化、並列化による高速化、操作系の実現などによって構成する計画である。初年度である23年度はこのうち、リアリティの改良に重点を置いた。ある瞬間の流体の形状を求めるために、この流体の計算単位を高周波成分と低周波成分に分けて考えた。低周波成分とは流体の大きな動きであり、高周波成分とは水面の細かな波や飛沫など、ノイズのような動きである。流体領域の計算単位は格子法と粒子法に分類できる。前者が空間を格子で区切ってそれぞれ移動を計算するもので比較的穏やかな動きに向く。一方、後者は粒子の集まりとして計算するため、粒子が散らばる飛沫をともなうような激しい動きを扱うことができるが、たとえば瞬間的にできる水の膜や糸をひいたような液体特有の粘性感をもった形状を再現するのが難しい。23年度はこの問題のうち、水の膜を表現することに重点を置いた。粒子法では流体を粒子として離散化して扱っているため、動きが激しい時は離散化された粒子と粒子の間隔の疎密が大きくなる。特に疎となる時、そのままレンダリング(画像化)すると、粒子が流体から離れた単独点となってしまう。そのまま動画化するとバラバラとした粒子感が強調され、液体特有の粘性感が失われる。この問題に対して、飛散した粒子をつなぐ補間粒子と、それらをつなぐサーフェースパッチを生成させた。瞬間的に発生する水の膜や糸が生成され、より粘性感のある瞬間形状を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前述のとおり、粒子を逐次分裂あるいは補間することで、離散的な粒子モデルでありながら水特有の粘性感を保った状態の流体形状の生成が可能となった。粒子を用いていることからアルゴリズムもシンプルである。薄い膜状になった水の追跡は従来のシミュレーションでは計算解像度の問題から極めて困難であった。この成果を23年度(2011年)夏のSCA2011(ACM SIGGRAPH/Eurographics Symposium on Computer Animation)で、"A Particle-based Method for Preserving Fluid Sheets"というタイトルで論文発表を行った。本コンファレンスでのディスカッションのあと、審査委員から論文賞(award : honorable mention)を授与された。Best-paper awardの次の賞である。後日、さらにモデルに改良を加え、IEEE Transactions on Visualization and Computer Graphics(TVCG)に論文投稿を行った。採択決定との連絡をもらっている。操作系では、これまで続けてきたイメージベースのものを発展させた。画面上でペンや指を使って仮想空間内での空気の動き≒風を与え、水面の動きを間接的に制御する方法を進めた。当初の計画ではノード点の移動によって二次元面上での操作であったが、画像上に現れた三次元面に対して実現できている。水面が波立つという動きを表現するため、大洋波モデルを単純化して与えており、低周波成分の大きい波についてより有効であるが、砕け波や乱流を伴う高周波成分の波についてはまだ課題が残っている。9月の芸術科学会NICOGRAPH2011においてポスタ発表し、多くの研究者からコメントや意見を頂いている。
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今後の研究の推進方策 |
一般に人間は低周波数の動きに敏感で、高周波成分の動きには鈍感である。そのため、低周波成分の計算に質の高い解法を、高周波成分には計算コストの低い方法を適用する。現時点では粒子法による成果が得られており、この計算単位をベースに、基礎となる流体力学の流れ場の計算の強化、表面張力の表現、並列計算による速度向上などを考えている。リアリティだけでなく、後述の操作系の実現のためにはリアルタイム性やインタラクティブ性もある程度必要であり、GPUレンダリングの活用を模索中である。操作系では、ノード点での形状制御のユーザーインタフェースの構造を構想中である。これまで、水面のメッシュをイメージベースドで操作してきたが、粒子で離散化した流体全体を扱うためには、この流体をすべて含み、かつ周波数成分に応じたvoxel空間を与える必要がある。一般に流体をコンピュータモデルとする研究では、シミュレーションとしての正確性を追求するものや、いくつかのパラメータを与えての結果を確認するものがほとんどで、ユーザーインタフェースやユーザーの意図に基づいた制御の研究は少ない。先行の関連研究にあるような、ある瞬間の形状をキーフレームとしたり目標とする形態(target driven)を与える方法も実装、検証し、操作系の改良を確認する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
流体計算モデルと操作系モデルという二つの大きな流れに基づき、進めていく。それぞれにおいて、すでに投稿済、あるいは今後投稿予定である複数の国際会議発表のための旅費と参加費、また、論文投稿のための英文校正費などを考えている。この分野で最もメジャーで当該分野の研究者が集まる重要なコンファレンスばかりであり、自らの研究発表だけでなく、多くの研究発表の取材や研究者どうしの情報交換の場としてかかせないものである。実際、昨年の研究発表を機会に同様の研究を行っているオーストリアや米国の研究者との協力体制が実現し、次のステップへの発展を行っている。なお、研究の進展によって高速計算や並列計算が本格化してきた時には、計算や実演のためのコンピュータシステムが必要になる。さらに、研究の進捗次第ではあるが、実際の水の動きの検証のために、水槽を使った実験と映像記録のできるシステムも導入を検討中である。現時点では数式ベースでの信頼性と有効性の検証を行っているが、研究完成時の最終的な検証には実験結果との対比が有効であることから、今年度あるいは最終年度である来年度の初旬に導入することを考えている。
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