研究課題/領域番号 |
23611022
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
藤原 惠洋 九州大学, 芸術工学研究科(研究院), 教授 (50209079)
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キーワード | 汎美計画 / 小池新二 / バウハウス ドイツ アメリカ / 芸術工学 |
研究概要 |
平成24年度に実施した調査研究は以下の4点に集約される。(1)小池新二に関する先行研究を媒介として国内研究者および小池新二人物像に触れる関係者への聞き取り調査。(2)千葉大学附属図書館における小池文庫の書誌学的分析を通した戦前期小池新二の言説構築の背景に関する関連情報の論考。(3)九州大学芸術工学部所蔵の関連資料・書籍の書誌学的分析を通した戦前期小池新二の言説構築の背景に関する関連情報の論考。(4)ドイツ・中欧における戦前期建築・デザイン系専門誌の発行事情の現地調査と小池新二著『汎美計画』(昭和18年(1943)発行)に反映された建築・デザイン情報および紹介事例の現地検証。 (1)に関しては森下明彦元神戸芸術工科大学教授のご協力を得て、先行研究に関する資料収集とアーカイブ作成を開始し現在展開中である。(2)に関しては千葉大学において小池文庫の閲覧可能図書及び閉架書籍の判別を行う中、書誌学的分析を進めることができた。(3)に関しては(1)と連動して九州大学蔵資料の書誌学的分析および片野博九州大学名誉教授への聞き取り調査、旧九州芸術工科卒業生初期卒業生への小池新二像に関する聞き取り調査等を実施、続けて派生するインフォーマント探索を続行している。(4)に関してはドイツのハンブルク、ベルリン、デッサウ、チェコ・プラハのデザイン系博物館・美術館・大学図書館、資料館等を訪問調査、主として1910年代~50年代に発行された建築・デザイン系専門誌の収蔵状況と展示作品の事例調査を実施、そこから『汎美計画』に掲載された事例や影響を与えたと考えられる内容に関する分析を進めていった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は研究の目的として、1968年(昭和43)旧九州芸術工科大学が創設された際の理念でありポスト工業化社会への道筋を与える哲学とも言えた「芸術工学」概念の創出に深く関わり、創立からの初代学長もつとめた小池新二が、きわめて弁証法的な態度で「芸術工学」概念を提示した水脈を辿り創案への経緯を明らかにしたいと目指し、その初源を仮説的に1943年(昭和18)発行の『汎美計画』に求めて行く。これは戦前期小池の言説活動の集大成とも言えるアンソロジーであるが、ドイツ・北欧を中心とする欧米からの建築・デザイン系情報を積極的に取り寄せ、訳出・翻訳しながら、重要な情報へのインセンティブを与え、日本国内に向けニュース・新刊紹介・書評といった形式で展開された啓発活動を網羅したものであり、「建築世界」「国際建築」をはじめ戦前期を代表する専門誌を媒体として建築・デザインを皮切りに、科学全般、物理、化学、哲学、宗教、芸術、政治、経済、技術、家庭等、極めて幅広い領域に及んでおり、まさに「汎美」にふさわしい活躍ぶるであった。こうした戦前期における国際的な情報収集の手法や内容の評価を始め、幅広い洞察や実証的な態度が戦後に引き継がれてなお、戦後復興期の日本の産業振興や社会進展にデザインの力を活用したいと構想を深めており、それらが醸成されながら背景となる社会的要請も加えつつ「芸術」と「工学」の弁証法的昇華を遂げていく経緯に接近することができつつある。こうした仮説の検証は『汎美計画』を貫く洞察溢れたアンソロジーが契機であるが、さらに視野を拡大させた時、優れた素材への洞察や手仕事の系譜を率いたデザイン力に基づく北欧デザインやドイツにおける地域固有資源を活かした土着的なデザイン等がわが国にどのような経緯で影響を与えていったのか、こうした視点も解き明かしていくべき課題として見えて来ている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度、まず『汎美計画』掲載のアンソロジカルな記事を丁寧に跡づけていく過程を通し、戦前期世界の多様なデザイン活動の動向を小池新二がどのように理解し、どのようなインセンティブを獲得しながらデザイン啓蒙活動の道筋を得て行ったのか、明らかにしていきたい。そこから戦後復興期、高度成長期を経た後、1968年(昭和43)に「芸術工学」を旨とする九州芸術工科大学が創設されるまでの水面下とも言える戦後デザイン界の道筋へ視野を広げ、「芸術工学」創出へ牽引していった小池新二のデザインイデオローグとしての役割を歴史的に押さえていく。そのために以下の研究を推進させる。 (1)小池新二研究に関するネットワークの構築を進めて行く。 (2)千葉大学附属図書館における小池文庫の書誌学的分析のうち、戦前期小池新二の言説構築の背景に関する関連情報の整理と分析を行う。 (3)九州大学芸術工学部所蔵の関連資料・書籍の書誌学的分析のうち、戦前期小池新二の言説構築の背景に関する関連情報の整理と分析を行う。 (4)昨年度実施する予定であったが渡航を延期した英国における戦前期建築・デザイン系専門誌の発行事情の現地調査と小池新二著『汎美計画』(昭和18年(1943)発行)に反映された建築・デザイン情報および紹介事例の現地検証を進める。 (5)以上を成果づけ論考としてまとめ、発表していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
以下、個別に必要とする研究費の使用計画を示す。 (1)学生アルバイトによる情報発信受信作業を通し、小池新二研究に関するネットワーク構築を進める。 (2)千葉大学附属図書館における小池文庫の書誌学的分析のうち、戦前期小池新二の言説構築の背景に関する関連情報の整理と分析を行うために学生アルバイトを用いる。 (3)九州大学芸術工学部所蔵の関連資料・書籍の書誌学的分析のうち、戦前期小池新二の言説構築の背景に関する関連情報の整理と分析を行うために学生アルバイトを用いる。(4)昨年度実施する予定であったが渡航を延期した英国における戦前期建築・デザイン系専門誌の発行事情の現地調査と研究者への聞き取り調査を行う。 そのうえで、最終年度としてのまとめ作業を随時展開して行くため際、資料整理用、写真整理作業等に文具・消耗品やアルバイト経費が発生する。
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