本研究は、高齢者を対象として、エモーショナルデザイン(Emotional Design)の観点からパーソナル移動補助機器およびそれらに関連するサービスシステムに対する感性的ニーズの調査分析を行い、今後のエモーショナルデザイン開発に向けた指針の導出を目的としたものである。 今年度は、本研究の最終年度として、これまでの調査分析の結果をまとめるとともに、国内外の学会において、口頭発表、論文発表を行った。 パーソナル移動補助機器については、同機器のなかの主要な製品の一つである「杖」を対象として、3名の被験者に対して、感性シートを用いた調査、ヒアリング調査を行った。そして、杖を全体、グリップ、シャフト、杖先ゴムの4種類の部分に分割して、美的観点、使い勝手の2つの観点から考察し、今後のデザイン開発に向けた留意点を抽出した。また、高齢者を被験者とした感性シートによる調査の受容性についても、併せて検討した。 移動に係るサービスシステムについては、7種類の公共交通機関(日常生活で利用:タクシー、バス、電車 観光等で利用:高速バス、新幹線、飛行機、船舶)を対象として、24名の被験者に対して、ポジティブ/ネガティブな感情が得られた利用経験についてヒアリング調査を行った。そして、スティーブン・リースの16種類の欲求に基づき整理し、公共交通機関の種類、サービスのプロセス、要因(人、物、空間、システム)との関係を考察し、今後のサービスデザイン開発に向けた留意点を抽出した。 本研究では、高齢者の生活において重要な要素の一つである「移動」に着目し、パーソナル移動補助機器(杖)およびサービスシステム(7種類の公共交通機関)に対するエモーショナルデザイン開発のための指針を導出した。今後は、パーソナル移動補助機器の種類、被験者数を増やすなど、研究成果の精緻化を行う。
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