研究課題
本研究では、いわゆる「当事者研究者参加型」アプローチにより、中高齢の重度視覚障害者を対象として、聞き分けやすいサイン音を試作しその評価を行った。サイン音の開発に当たり、基本コンセプトを下記のように設定した。1 家電製品の動作状況をリアルタイムに認知することを可能にすること。2 サイン音が生態学的に妥当であること。つまり、サイン音が家電製品の動作状況あるいは機能イメージを直感的に伝達できること。3 高齢者にとって4kHzを超える可聴音が聴取しにくいことを考慮すること。4 過渡音(バースト)及びスウィープ音など定常音以外の音を念頭に置くこと。まず始めに、ごく短時間持続するバーストを用いて、先行するバースト音が後続のピッチ弁別に果たす影響を検討する基礎実験を実施した。継時弁別課題の結果、バーストは継時的に聴覚印象が変化することから、バースト音を構成要素としたサイン音は不適切とみなした。次に、生態学的妥当性及びピッチ変化に着目して、4000Hz以下の6個の純音とその変調からなるサイン音の試作を行った。すなわち、電気ポットなどの水を湧かす電化製品のプロセスモニタリングを想定し、水が沸騰するまでのプロセスをモニタリングするようなピッチ変化のある報知音を試作した。試作した報知音とケトルの沸騰までの音を刺激として、異なる水の状態(沸騰状態/沸騰直前)を判断する実験を行った。その結果、ケトル音と同様に、試作した報知音において、異なる水の状態を試作報知音から推定できることが示唆された。さらに、試作報知音が日常生活における有用性を検討するために、複数の既存サイン音、日常騒音が混在する聴取条件での聞き取りやすさを検討したところ、試作報知音が特定しやすいことが示唆された。以上より、生態学的に妥当であり、動作状況の継時的変化を直感的にイメージ可能な報知音の有用性が示された。
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