・本年度は研究成果のうち、乾漆構造の強度実験の結果とそれに基づく椅子のデザインおよび制作物を日本建築学会および日本デザイン学会のいずれも学会大会にて発表した。合わせてデジタルファブリケーション工房の運営者で組織される世界ファブラボ会議にて、招待講演として本研究の一部を紹介した。 ・ 乾漆を構成する際の型からの離型および離型面の品質向上のための工程の最適化実験を実施した。従来、離型面を平滑で高品質な漆面に整えるために、離型後に修正および漆塗装が必要とされてきたが、本実験により、離型面を鏡面として得ることが可能となった。具体的には、離型面に塩化ビニール製の平滑板を利用することで、薬剤等を予め塗布するというような特段の離型処理が不要であることが明かになった。これにより、鏡面状態の漆塗り表面を得る技術の一般化が期待されるが、曲面の離型処理の際に塩化ビニール製の離型面生成が課題となる。 ・ 乾漆の板を素材とし、沈金技法に倣ったレーザー加工機による表面装飾実験を行った。従来、彫刻刀を用いて表面彫刻を行う職人が図案制作も行っていたが、これにより、沈金技術の一般化が期待される。 ・平面的な漆塗り面を研磨する作業は職人にとって肉体的負荷の高い作業である。上塗りと呼ばれる塗装の最終工程の直前の塗装対象物の表面調整は、職人の経験と勘によって砥石等を用いて行われるが、中塗りや下塗りと呼ばれる下地作業においては作業の機械化の可能性がある。市販のCNC木工切削機を改造し、切削軸を備えたルーターを、圧搾空気駆動型のオービタルサンダーに換装した。サンダーの動きは3次元的にプログラムが可能で、予め職人の手の動きをスキャンし、この動きのデータにより職人の手作業を機械的に再現できる可能性を確認した。
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