研究課題/領域番号 |
23611041
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研究機関 | 多摩美術大学 |
研究代表者 |
須永 剛司 多摩美術大学, 美術学部, 教授 (00245979)
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研究分担者 |
岡本 誠 公立はこだて未来大学, システム情報学部, 教授 (90325887)
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キーワード | デザイン学 / 情報デザイン / 参加型デザイン / メタ・デザイン / トポス / 状況的学習論 / 正統的周辺参加 |
研究概要 |
平成24年度は次の研究課題を展開しそれぞれの成果を見いだした。 1)説明ではなく表現する学問として「コトのデザイン」の体系化を試みた。デザイン知の基本型として、表現・創造・構成(synthesis)によるアプローチを仮定した。その基本型と、いわゆる科学知の説明・批判・分析(analysis)というアプローチとを比較検討することから「2つの知性を循環させること」の可能性について議論した(須永、2013、第36回横幹技術フォーラム)。 2)デザイン問題をシステムを利用する人々の活動へ拡張する可能性を検証するために、「コトのデザイン」の枠組みを適用する実験デザインを実施した。函館市民と行政が参加するデザインワークショプ「市民の移動と路面電車」である。そこから、「コトのデザイン」の枠組みの精緻化と、枠組みを応用するデザインプロセスのモデル化を進めた。その後、このデザインワークショプの成果の一部が函館市の市電サービスとして社会実装されている。 3)「コトのデザイン」の枠組み構築を、当初予定した国際ワークショップで検討することを取りやめ、デザイナーと市民の連携という観点から地域社会での参加型ワークショップをとおして展開した。海外との連携に不可欠な外国語利用が、コトという観点からの共同を困難にしてしまうと判断したからである。地域社会での参加型ワークショップの試みから「コトのデザイン」の原理として、①モノ(実体)とコト(現象、経験)の2つの観点からデザインする、②生活者と連携することをデザインの基本とする、③客観的視点と主観的視点の両方をもってデザインする、④「わかる」と「できる」を意識してデザインする、⑤境界を臨機応変に設定する(境界を設けないことも含む)を整理した(藤井、2012, designシンポジウム)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、情報メディア技術が実現するさまざなソリューションを真に社会に着地させ、そこに心豊かな活動を生み出すこと、それらデザインができる人材の育成にある。2つの研究目標、「コトのデザイン」の枠組み構築と「コトのデザイン」のカリキュラム開発に向けた研究の進展について述べる。 研究目標のその1、「コトのデザイン」の構築では、デザインの対象を「モノ(客体)」から「コト(自己を包含する出来事、現象)」へ拡張する認識の枠組みの基本型を見いだした。説明・批判・分析(analysis)からなるいわゆる科学知のアプローチとの比較から、デザインのアプローチを展開する「表現・創造・構成(synthesis)」という知の枠組みの基本型である。研究目標のその2、「コトのデザイン」を実践する専門家を養成する教育カリキュラムの開発においては、デザインを展開するプロセスのモデル化を進めた。また、そのプロセスにおいて学び手たちの創造的なマインドセットを育むための学習論についても議論を始めている。 当初に計画した「コトのデザイン」のプラットフォーム探索のための国際ワークショップの実施は見送っている。「コト(自己を包含する出来事、現象)」へ拡張する認識をとらえようとする本研究の主題の特性から、外国語を使用する市民参加のワークショップの実施は困難であることがそのプログラム策定の過程で見いだされている。それを避けるために日本語で議論できるメンバーで実社会の文化的実践と連携することを重視して研究を進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は本研究の最終年度である。次の課題を実施する。 1)「コトのデザイン」の枠組み構築の成果として、その方法、方法論、理論のまとめを行う。そのまとめは、本研究を展開するプロセスで導出され創出され議論された、方法、方法論、理論を図解したカタログとして編集し「コトのデザインの方法(仮称)」としてまとめる。次世代デザインのカリキュラムとして実験的学習プログラムに利用する。 2)ここまでの研究で構築された「コトのデザイン」の枠組み(方法、方法論、理論)を、より幅の広い学問領域に展開する。具体的には、情報学、機械工学、 建築学、 経営学、心理学が参加する学際的デザイン学大学院連携プログラムにおいて「コトのデザイン」のプロジェクトベース学習を試みる。そこから「コトのデザイン」のより普遍的な枠組みを整える。これは、上記1項のまとめに還元する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究費は、1)本件研究の成果発表、そして2)成果をまとめる冊子の編纂、3)デザインの学習プログラムでの成果の利用、3つが使途の大きなカテゴリである。 成果の発表は、日本デザイン学会、ヒューマンインタフェースシンポジウム、その他の学会などで行う。冊子はデザインを学ぶことに関心をもつ幅広い領域の学部生大学院生の副読本として企画編集し印刷物とする。また、研究成果の応用としては、研究メンバーの所属する機関の教育プログラムに適用すること、また新たにスタートする学際的なデザイン学大学院での授業等に展開することを計画している。
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