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2012 年度 実施状況報告書

WEBコミックの国際標準規格の研究

研究課題

研究課題/領域番号 23611049
研究機関神戸芸術工科大学

研究代表者

大塚 英志  神戸芸術工科大学, 先端芸術学部, 教授 (20441355)

研究分担者 泉 政文  神戸芸術工科大学, 先端芸術学部, 助教 (20441363)
菅野 博之  神戸芸術工科大学, 先端芸術学部, 准教授 (60549666)
杉本 真理子  神戸芸術工科大学, 先端芸術学部, 講師 (50319901)
本多 マークアントニー  神戸芸術工科大学, 先端芸術学部, 助手 (70594373)
山本 忠宏  神戸芸術工科大学, 先端芸術学部, 助教 (60441375)
キーワードwebまんが
研究概要

webへのまんが表現の移行は電子書籍の端末やプラットフォームの整備が進む中で、主流は「書籍」という頁単位の本の見せ方を単純にまんが表現にも適用する形である。しかし日本まんがはその画面構成が「見開き」と呼ばれる2頁単位でのコマ構成が演出の単位となり、スマートフォンやタブレットにおける1頁単位での表示を行うと、その演出方法から根本的に組み立て直す必要が生じる。また、コマの進行が欧米及び東アジアが左→右の進行なのに対して右→左の進行は日本にしか見られない。こういった日本まんがにおいて自明の「文法」が、webへの移行とそれに伴うまんが表現の国際標準化という事態において「日本まんが表現のガラパゴス化」の潜在的リスクとしてあることが本研究の問題意識である。それに加え、webコミックのビジネスモデルが現状ではweb上での課金よりも紙(書籍)による収益が中心となっており、旧来の本・雑誌を想定した文法からの離脱ができない。
そのため本研究は①まんがのwebへの移行及び国際化において文法上のどのような変容が求められるかを実作において検証すること②国・地域間のまんが文法の偏差の調査という文法上の問題の所在と整理に重きを置いた。
web上でのまんが文法の変化においては韓国縦スクロール型ウェブトゥーンを参照にして、縦型スクロールに加え横型スクロール(左進行型・右進行型)を含め、スクロールという「頁概念からまんが表現が解放された形式」において、どのような新たな文法が成立するのかを検証した。また、地域間のまんが文法の偏差に関しては東アジア及び北米で日本型まんが表現のワークショップを行い、そこで受講生の作例において生じた齟齬や矛盾を中心に検証することで地域間のまんが文法の「描く」という水準での偏差の抽出を試みた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

スクロール型まんが形式においては①縦スクロール②横スクロール(右→左進行)③横スクロール(左→右進行)について実作者と協力しながら作品制作をし、いくつかの文法上の仮説を得た。②横スクロール(右→左進行)はいわゆる「絵巻物」と同じ進行となるが、1940年前後、奥平英夫、今村太平ら映画批評の援用によって主張された「絵巻物の文法」のいくつかが応用できるだけでなく、画面を上下に分割する中心線上に視座誘導のフックとなる要素を配置することで常に中心線を意識させ、右→左への画面進行がスムーズに流れていくことが確認できた。①縦スクロールについてはweb上で発表される実作品は同一のコマを単純に並べた形のものが中心となっているが、本研究での実験作では日本まんがの映画的文法との互換性及び少女まんが的な心理描写との互換性が高いという仮説が得られた。③横スクロール(左→右進行)は実験作を制作し、検証中である。
地域間のまんが文法の偏差の調査は中国・北京、韓国・ソウル、カナダ・モントリオールの3地域4会場で述べ500人を対象にワークショップを行い、同一のシナリオでまんが絵コンテを描かせ、同一課題を行った日本人の作品と対比するサンプル作品を約100作品得た。その結果、東アジア及び北米では左→右のコマ進行に馴染んでいるためコマ間の時間進行が日本と逆になり、そのことによる文法上の齟齬が生じやすいこと、日本まんがにおける「余白」を用いたコマ内の画面構成が日本の特異性としてあることなどが確認できた。
いずれも実験作・ワークショップを通じ「描く」という行為の中で、まんが文法の紙とweb、日本と海外の差異や齟齬を検証する具体的な材料を得ることができ、理論上の仮説作業ではなく実作との互換性のある理論化が可能な基礎調査ができた。

今後の研究の推進方策

スクロール型におけるまんが文法の理論化を進める。実験作で用いた文法を映画理論及び15年戦争下の絵巻物の文法化の作業を踏まえて、その基本部分を体系化する。また、もう一つの仮説モデルとして得られている「静止画のみのモンタージュによるスライドショー形式」の実験作の制作を行う。これは「動かす」ことではなく、「カットのモンタージュ」という日本型アニメーションで特異に進化した部分を特化した形式である。スクロール型と同様、日本まんがの文法上の特異性をいかにして実践的に普遍化するかが日本まんが表現のガラパゴス化リスクに対して必要である、という本研究の基本的立場を一貫する。
日本まんが表現と東アジア・北米におけるまんが表現の偏差についての調査は東アジア及びヨーロッパで各一箇所予定し、仮説の確認を行う。その中で日本の従来型のまんが表現における「右→左」というコマの進行方向が果たして今後維持されるべきなのかについても検証したい。紙における文法上の齟齬がこの進行方向が要因となっているケースが多いからである。
このようにまんが表現のweb化、国際化においては日本まんがの特質は何を普遍化し何を棄てるのか、という視点が極めて重要になっていく。
また、研究の副産物ではあるが、このような海外における日本まんが表現の実践レベルでの理解のされ方と齟齬を調査していく過程で、日本型まんが表現を海外にいかに教育・啓蒙していくかということが今後の日本まんがの国際性を担保していく上でいかに重要か、という視点を得ることができた。日本まんがの市場の国際性を維持していくためにはその形式を「描き手」の水準で国際化していくことが重要である。本研究の調査から「海外向け日本まんが入門書」の構想を得ることができ、研究はその予備調査としても応用し得る。

次年度の研究費の使用計画

次年度については当初の予定通り、研究成果の集約及び刊行に集中する。web上に実験作のいくつかを公開する一方、研究報告書をまとめる予定である。
また、当初研究計画にはなかった「海外向け日本まんが入門テキスト」の試作版を本研究の副産物として作成する予定である。

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公開日: 2014-07-24  

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