研究概要 |
本実験では、光ピンセットを用いてアクチン繊維に張力を負荷するとコフィリンによる切断を抑制することができ、一方、張力負荷されていないアクチン繊維はコフィリンによって短い時間で切断された。おそらく力学刺激によりアクチン線維に何らかの構造変化がおこり、アクチン線維の切断因子コフィリンによりアクチンの切断作用が抑制されていた。これは、アクチン線維が力学受容の分子的な実体として働いることを強く示していた。本研究ではアクチン線維の長軸の周りの回転のゆらぎを測定し、コフィリンがアクチンに結合するとアクチン線維の長軸の周りの回転のゆらぎに変化が起きるかを検討した。実験結果から、コフィリンの結合はアクチンの線維の長軸周りの回転ゆらぎの振幅を増加させることが観察された。一方で、光ピンセットで、アクチン線維の先端のビーズをトラップし、アクチン線維に力を付加すると、力の付加によってアクチン線維の長軸の周りの回転のゆらぎの減少が見られ、張力が分子の構造的なゆらぎを制限することを示すことができた。これら一連の結果は論文として発表した(Hayakawa et al., 2011、続報を投稿中)。 上記の結果は、力をアクチン線維に負荷するとアクチン線維内の張力が増大して、アクチン線維を構成しているGアクチン分子間の運動の自由度が下がり、アクチン線維の長軸の周りの回転が抑制されて、その結果コフィリンの結合サイトが露出しなくなるという仮説を支持するものであった。 本研究はアクチン分子自身に張力感知性があることを仮説としている点で極めて独創的な研究である。分子間の相互作用による活性制御に力学的な作用が介在していることは多くの場合に予想されることで、本研究により力学的な分子間相互作用の重要性が広く認識され、多くの細胞反応に適用されつつある。
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