研究課題/領域番号 |
23612004
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
稲垣 純子 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (90271056)
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研究分担者 |
廣畑 聡 岡山大学, 国際センター, 准教授 (90332791)
二宮 善文 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (70126241)
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キーワード | ADAMTS1 / 細胞外マトリックス / がん内圧 / 血管新生 / リンパ管新生 |
研究概要 |
がんを取り巻く細胞外マトリックスに着目し、がん組織の内圧上昇に対してがん周囲の細胞外マトリックスがメカノセンサーとして働き、がんの血管新生・リンパ管新生を制御する機構の解明を目的とする。 まず、強力な血管新生抑制効果を持つことが知られている細胞外マトリックス分解酵素であるADAMTS1に着目し、そのリンパ管新生への効果について、in vitroで検討した。その結果、ADAMTS1導入ヒト皮膚微小リンパ管内皮細胞(HMVEC-dLy)において、その増殖、管腔形成、および遊走が阻害されることが分かった。ADAMTS1は、VEGFCに直接結合してVEGFCをトラップすることによりVEGFC/VEGFR3シグナル伝達経路を阻害し、リンパ管新生を抑制していることが明らかになった。さらにADAMTS1は、TSP-1を分解し、より強力な抗血管新生TSP-1ポリペプチドを遊離し、リンパ管新生抑制に関与している可能性も示唆された。ADAMTS1は血管新生のみならずリンパ管新生にも阻害効果を示すことが明らかになった。 次に、がん組織中の内圧上昇に対する血管新生・リンパ管新生関連遺伝子の発現をがん組織内内圧の異なる二種類のがん細胞株を用い、低酸素細胞培養系および背部にこれらのがん細胞を移植した腫瘍内圧上昇モデルの二つの系で解析した。本解析のため、ドイツより日本学術振興会外国人特別研究員(欧米短期)としてホフマン博士を派遣し、共同研究を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ドイツより日本学術振興会外国人特別研究員(欧米短期)としてホフマン博士を派遣し、共同研究も実施し、すでに解析の段階に入っている。さらに、培養細胞伸展システムの系もすでに整っており、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、マウス背部に移植した腫瘍片において内圧上昇と基底膜の破綻の関連を検討し、がん周囲のマトリックスによる圧負荷感受機構について、基底膜から細胞への情報伝達系、さらには血管新生・リンパ管新生への関連を明らかにするため、メカノセンサーの一つと考えられているintegrinや CD31、LYVE-1およびADAMTS1、VEGFA、VEGFC、bFGF、HB-EGFなどのmRNA、タンパク質発現変化、および免疫組織学的な解析を行う。 また、培養細胞伸展システムを用いて、 HMVEC-dLyおよびヒト微小血管内皮細胞(HMEC)に伸展刺激を与えた場合においても、血管新生・リンパ管新生関連遺伝子や、integrinなどの遺伝子の発現をmRNA、タンパク質レベルで検討する。 さらに、関連が示唆されるメカニカルストレス情報伝達関連分子のsiRNAやその阻害剤を用いて、培養細胞並びに担がんマウスモデル系で、がん血管新生・リンパ管新生への影響を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
がん細胞を移植した腫瘍内圧上昇モデルの系での解析が、ドイツから派遣したホフマン博士との共同研究によりスムーズに進行し、また培養細胞伸展システムの系も本研究室において他の研究者によりすでに整っていたことより、222,455円の繰越金が生じた。 担がんマウスをもちいた腫瘍内圧上昇モデルにおいては、すでに解析を進めている段階であり、培養細胞伸展システムを用いたin vitro の解析においても準備は整っている。従って、前年度に生じた繰越金(222,455円)は、抗β1 integrin中和抗体やGly-Arg-Gly-Asp-Ser-Pro (GRGDSP; RDGペプチド)を用いたメカニカルストレスにより増強されると考えられる情報伝達系への影響の解析に充てる予定である。 メカニカルストレス情報伝達関連分子のsiRNAやその阻害剤を用いたin vitro、in vivo での解析を行い、メカニカルストレスのシグナル変換関連分子を標的としたがん血管、リンパ管の正常化を含むがん治療への応用を図る。 以上の研究計画に沿って、次年度の研究費を使用する予定である。
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