研究課題/領域番号 |
23612005
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
山口 眞紀 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (30271315)
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研究分担者 |
竹森 重 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (20179675)
大野 哲生 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (30233224)
木村 雅子 女子栄養大学, 栄養学部, 准教授 (30328314)
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キーワード | 心筋症 / X線回折 / トロポニン / 分子動力学 |
研究概要 |
1.回折実験用セルの改良:放射光を透過する石英ガラス(特注品)あるいはカプトン膜の間に微細な線維状筋標本を配置し、ペルチェ素子で温度管理をしながら溶液をかん流するための試料セルを作成した。 2.変異(K247およびE244D)および野生型トロポニンの(追加)作成:ヒト心筋トロポニンTの野生型cDNAをテンプレートとして、オリゴヌクレオチドを用いてPCRにより変異を導入した。発現には低温発現ベクターと大腸菌(BL21)を用い、アフィニティークロマトグラフィにより精製した。 3.トロポニン入れ替え法による心筋細胞への変異型および野生型トロポニンの導入:Hatakenakaらの方法に基づき、大過剰の変異トロポニンTを含む人工細胞内液に筋細胞を浸し、内因性のトロポニンを変異トロポニンTと置き換えることで、変異を導入した。 4.変異型および野生型トロポニン導入筋の横断面積測定:変異型および野生型トロポニン導入筋の単位面積あたりの張力特性をより確実に決定するために、筋線維中の筋原線維とミトコンドリアなどの他の構造体を蛍光色素により染め分け、共焦点レーザ顕微鏡により筋原線維の横断面積を測定し、「K247R変異体では野生型より単位面積当たりの張力は小さくなっている」という前年度の結果を確認した。 5.放射光施設でのX線回折実験および回折像の解析:心筋標本からの二次元X線回折像を野生型および二種類(K247RおよびE244D)の変異型トロポニンを導入した標本について取得した。X線による標本のダメージを避けるために、一箇所での露出時間をおさえて、数箇所の異なる場所からの回折像を一つのイメージングプレートに記録することで、よりよい画像をとることができるようになった。また、ソフトウェアMATLABによる画像解析プログラムを改良し、加算画像から微弱なトロポニン、トロポミオシン反射を分離することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度までに、Hatakenakaらの方法による変異体の心筋細胞への導入の際、心筋細胞のサイズによる導入効率の違いが無視できないほど大きいことがわかったことにより心筋標本のサイズをいろいろに変えて導入効率を電気泳動法により詳細に調べるなどの実験を行う必要が生じ、変異型トロポニン導入の際に標本がいたまない処理時間を決定するための条件検索や、骨格筋に比べて筋原線維含有量が少なく配向もよくない心筋標本から、定量的な解析が精度よくできるような良好な回折像を得るためのX線回折実験条件の検索に多くの時間を費やした。またX線回折像の解析に際しても、心筋細胞の微弱な信号からノイズを除く方法の改良を入念に行った。このため、K247RおよびE244D変異体についての実験が昨年度から本格的なスタートとなったため、K247RおよびE244D変異型ならびに野生型トロポニンTを導入した実験については順調に進み、良好なX線回折像を取得することに成功したが、昨年度に予定していたトロポニンIとCを再構成したときの回折実験や、実験計画当初に予定していたG159D変異体についての実験は時間的余裕がなく、行うことができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
1.野生型および変異型トロポニンの(追加)作成:23および24年度と同様な方法で、トロポニンTおよびトロポニンIとCを作成する。 2.変異型および野生型トロポニン導入筋の横断面積あたりの張力特性の追加測定:昨年開発した共焦点レーザ顕微鏡を用いた正確な筋原線維横断面積測定の手法を用いて、前年度に行った変異型および野生型トロポニン導入筋の横断面積あたりの張力特性の測定を追加する。 3.放射光施設でのX線回折実験:昨年度の実験で、変異型ではトロポミオシンのシフト幅が野生型より大きいという予測と一致する結果が得られ始めてきた。そこで今年は昨年度と同様の条件で、心筋標本からの二次元X線回折実験を行い、回折像を蓄積する。標本のサイズによりトロポニンT導入率にある程度のバラツキが生じることは避けられないため、トロポニンT導入率の違いによる回折像への影響を調べておく必要がある。また、回折像が標本の長さ(筋節長)にどのように依存するかも調べておく必要がある。これらのために十分な数の回折像が必要となる。また、トロポニンIおよびCサブユニットを再構成した標本についても回折像を取得し、より生理的な条件での変異型の特徴を検索する。 4.回折像の解析:改良したMATLABによる画像解析プログラムにより、加算画像から微弱なトロポニン、トロポミオシン反射を分離し、野生型と変異型での違いを同定する。実験計画当初予定していたG159D変異体など他の変異体についての実験は時間に応じて行うこととする。 5.中間発表:得られた結果を日本生理学会や循環器学会に中間発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.野生型および変異型トロポニンの(追加)作成:23および24年度と同様な方法で、トロポニンIとCを作成するために、ディスポーザブル実験用品(サンプルチューブ・チップ)および試薬を購入する。 2.変異型および野生型トロポニン導入筋の横断面積あたりの張力特性の追加測定:共焦点レーザ顕微鏡を用いた正確な筋原線維横断面積測定の手法を用いて、変異型および野生型トロポニン導入筋の横断面積あたりの張力特性の測定を追加するために、標本採取に必要な動物と蛍光試薬、ATPなどの高純度試薬を購入する。 3.放射光施設でのX線回折実験:標本のサイズによりトロポニンT導入率にある程度のバラツキが生じることは避けられないため、トロポニンT導入率の違いによる回折像への影響を調べておく必要があることと、回折像が標本の長さ(筋節長)にどのように依存するかも調べておく必要があるため、十分な数の回折像が必要となる。これに際して、標本採取に必要な十分量の動物と試薬の購入費および放射光施設への複数回の交通費を支出予定である。また、施設からのデータ持ち帰りのための一次保存用記録メディア(USBメモリ)も購入する。 4.回折像の解析および保存:改良したMATLABによる画像解析プログラムにより解析した画像を、元の生画像とともに、野生型と変異型それぞれについて保存するために、記録メディア(ハードディスク)を購入する。 5.中間発表:得られた結果を日本生理学会や循環器学会に中間発表するために、印刷用トナーカートリッジなどの消耗品を購入する。
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