研究課題/領域番号 |
23613002
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長村 文孝 東京大学, 医科学研究所, 教授 (90282491)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 橋渡し研究 / 被験者 / 説明同意文書 / 心理状況 / 理解度 |
研究概要 |
臨床試験では、インフォームド・コンセントが必須である。説明すべき内容は指針等で定められているが、研究の資金源、利益相反、知的財産権の帰属等近年必要な項目は増加傾向にあり、被験者にとっては馴染みが薄く理解するのに困難な内容が増え、記載内容と被験者が知りたい情報とに乖離が生じていると考えられる。また、一般に記載の順番は該当する法規・指針の提示している順番であることが多く、被験者に説明してはいるものの、実際には理解の得られていない説明となってしまい、むしろ被験者保護の観点から考えるとむしろ障害になっている可能性が存在する。特に被験者への説明に関して困難が伴うのは、他に標準療法の無い段階であり、生存・QOLに直接影響のある患者を対象とした早期試験である。アカデミア発の橋渡し研究(トランスレーショナル・リサーチ:TR)では被験者保護と倫理的な施行は最大の遵守事項である。しかし、TRでは、遺伝子治療、細胞療法、免疫療法、再生療法等の新しい概念の治療法が多く、被験者はそれ故に試みられる治療法に対して過剰に期待する傾向にあり十分な注意が必要である。本研究では、特にTRにおける説明文書の理解に及ぼす因子とその影響度を科学的に検討し、それを基にした説明文書の作成のためのテンプレート及び作成要領の作成と実証、そして公開を目的とする。このような、より効率的なツールの作成により負担の軽減を図ることができるのと同時に、他の医療機関に本研究の成果を活用してもらい、「説明はよくしてもらったが、項目が多すぎ、実はよく理解できていない」という皮相的な説明状況を来すことがなくなり、より被験者の理解とそれによる臨床試験倫理の向上に役立てることを目的とする。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、医科学研究所附属病院使用してきた説明文書作成の手引き及び説明同意文書の見本の記載項目と記載内容を見直すと共に、今まで当院で実施されたがんを対照としたTRに参加した被験者の心理状態と理解度、身体的特性及び医療者からの説明内容等の既存資料を検討した。当院では被験者の心理状態・理解度について臨床心理士が評価表としてまとめている。この評価表は知的側面、意思的側面、性格的側面、情緒状態の13項目を5段階で評価し、コーピングスタイル、TRの理解、家族関係、医療者に対する態度、全体的コメントに関しては記述として構成されている。当院で実施された約20のTRの被験者約80名の評価表を電子化・データベースとしてまとめた。数値に関しては病状・身体状態の変化と経時的に関連を有していないかの検討を始めた。また、記述部はコード化し、被験者の各種要素の値、原疾患の悪化等の臨床経過と心理面・発現の変化との関連の解析を開始した。特に理解度と納得度に関して経時的にみても高い評価となる因子が存在しないかに注目して解析を行っている。また、説明文書の解析には用語と文体を専用ソフトにて分類・再分化を開始し、重視すべき項目とその分量配分の状況の点検を開始した。また、1病院では、評価等に関して偏りが生じる可能性があるため、連携しているがん専門病院に説明同意文書作成の手引きと見本を提供して、実際の作成を通じての有用性の検討依頼を行っている。なお、本研究の開始にあたっては医科学研究所倫理審査委員会の審議を経て承認を得ている。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究においては過去のがんを対照としたTRへの参加者の心理・面接に関する評価書を基にした被験者の理解度、心理状況が試験参加後の身体状況の変化によりどのような変化を及ぼすのか、説明文書の記載とその理解がどのように関連するのかを明らかにすることが1つの達成目標である。これは平成23年度でデータベースを作成し、解析を試みているが、なお試行を繰り返しているが平成24年度前半には概ね終了する予定である。これと平行して説明同意文書作成の手引きとそこから作成した内容の検証作業を行っている。これには資料を提供することにより他の医療機関からのフィードバックも期待できることからより客観的な評価なされる期待が高まった。これらの成果から一定の作成基準を新たに作成して平成24年度後半から平成25年度にTR被験者を対象とした検証作業を実施する。これらの成果は、学会等にて発表公表するとともに当院所定のHPより成果を公表し、HP上の情報に関しては著作権で制限することなく自由に使用できるものとする。また、より多くの医療機関と連携し、情報をフィードバックしてもらうことにより施設による差異を無くし一般化できるように対応する。施設により有用性に関して評価が分かれるようであれば、平成25年度末には修正できるように対応する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度に引き続き、心理面接結果・評価報告書から作成したデータベースを基にした解析を行う。被験者は他に生存期間を延長させる標準療法の無くなった段階のTRの参加者であり。被験者毎の経時的評価、各評価項目の横断的評価、記述評価の評価を行う。これは予後の限られたがん患者特有の問題が存在すると予想しており、これらの解析を通じて今回の研究の基盤となる段階の解析と評価が終了するので、この結果を院内関係者及び海外専門家の意見を交えて検討し、平成24年度内には学会発表あるいは論文発表のための準備に目処をつける。次にTRコーディネーターを交えて、既存の当院説明同意文書作成の手引きとこれにより実際に作成された説明同意文書の検証作業を行い、これにによって新たな基本フォーマットの作成を行い、医師あるいはコーディネーターの評価を受ける。この際、TRへの影響を与えないように、参加の同意が取得された被験者を対象とし、臨床心理士TRCを交えた複数人が面談を行い、説明および評価の聞き取りを行う。また、説明同意文書作成の手引きと説明同意文書の見本は既に提供を開始しているがより多くの医療機関に情報と共に提供を行い、有用性に関して聞き取りを行う。また、説明文書の記載項目の順番、分量、フォーマット、記載の雛形は順次見直しを行い、新たに実施されるTRで使用し、責任医師及び参加者からの評価を積極的に受るフィードバック作業を継続的に実施する。
|