研究課題
出生前診断の普及により、その結果に基づく選択的人工妊娠中絶の機会が増加しているが、これは当事者である妊婦の欲望とそれを是認した医療者によって推進されているのが現状である。この現状に対して、一般市民の意識について調査を行った。調査は無記名アンケートによって行い、配布した3958部の調査用紙のうち1722部(43.5%)を郵送により回収した。医療系の業につく市民や学生は598名(34.7%)であったが、非医療系市民(学生を含む)との間に有意な差を認めた項目はなかった。一般的な人工妊娠中絶に対する意識については、母体外生存が不可能なことを条件として容認するという者が、男女ともにほぼ2/3であった。非選択的人工殷賑中絶との比較した場合の選択的人工妊娠中絶の道徳的位置付けについては、女性においてより問題が大きいとする者が多かったが、男性では問題視しない者とほぼ同数であった。親の胎児の選択権については、女性の85%、男性においても75%が認めていなかった。但し、男女ともに、権利としては認めないが、状況によってはやむをえないとする回答が過半を占めており、現実的な対応は認めていた。研究機関中に導入され、巷間の話題となった母体血中浮遊胎児DNA断片を用いた新型出生前診断については、女性の70%、男性でも65%が、妊婦に対する情報提供を限定的にすべきであるとの回答を行った。一方、30歳以上の生殖年齢の女性においては、全ての妊婦に対する新型出生前診断に関する情報提供を行うべきであるとした者が増加する傾向が認められた。この結果は、人工妊娠中絶に対する宗教的視点からの議論が政治化する状況とは異なり、状況によっては選択的人工妊娠中絶はやむをえないが、権利として堂々と主張するべきではないという本邦ならではの弾力的な道徳観がみられたと考えられた。
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