研究実績の概要 |
平成26年度は,温泉地の宿泊施設を対象とした調査票調査を実施するとともに,個別の温泉地の事例のフィールドワークを引き続きおこなった. まず,宿泊施設を対象とした調査票調査については,市販のデータ集『宿泊専科 東日本/西日本宿泊施設データ集』に掲載されている全国の温泉地のうち,ホテルと旅館の軒数が8軒以上30軒以下の温泉地150箇所に存在する2,048軒のホテルまたは旅館を計画標本として,郵送法により実施した.廃業等で調査不能な宿泊施設22軒を除く2,026軒の対象旅館のうち,38.2%にあたる773軒から有効回収を得た.150箇所の温泉地ごとの有効回収率の平均は39%,標準偏差は15%であり,大きな偏りは見いだされなかった.主な調査項目は,経営方針と取組み,温泉地内外の同業者や専門家との接触の頻度,温泉地内の観光まちづくり活動への参加頻度,宿泊施設相互の関係や合意形成プロセスへの評価,外国人宿泊客の割合等に加えて,客室数や標準宿泊料金などの基本属性である. また,温泉地の個別事例として,長野県昼神温泉の観光まちづくりへの取組みについて,行政関係者も含めて数次にわたるインタビュー調査をおこなった. この研究の全体の課題は,温泉地の観光まちづくりにおける宿泊施設同士の関係性,すなわち競争と協調の2側面が,まちづくりの成功にどのような効果をもたらすかを分析することであった.上記調査票調査の分析からは,温泉地内での合意形成プロセスについて「規模や経営形態の違いによらず,すべての宿泊施設の意見が公平に反映されている」と感じている宿泊施設の割合が大きい温泉地ほど,ここ5年間の宿泊施設の平均的な売り上げが増加傾向にあることが見てとれた.個別の温泉地の事例研究の成果等も合わせた総合的な結論として,地域内の各当事者が平等に合意形成プロセスに参加することが重要であることがわかった.
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