本研究は、日本国内における世界文化遺産の暫定リストを対象に、世界文化遺産登録をめざす地域社会の変容と観光資源化する際のプロセスを明らかにするとともに、観光社会学的課題を整理し新たな観光と文化資源の枠組みを提示することを目的としたものであった。本研究計画において当初想定していなかった2つの事態が起きた。ひとつめは研究計画期間の間に暫定リストの3件が相次いで世界文化遺産に登録された。もうひとつは、2011年の東日本大震災をめぐってなされた文化の資源化の状況がある。前者については、「平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群―)」が2011年に、「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」が2013年に世界文化遺産に登録され、「富岡製糸場と絹産業遺産群」が2014年に世界文化遺産に登録された。2011年の登録以前に日本国内で世界文化遺産登録されたのは「石見銀山遺跡とその文化的景観」の2007年であり、その前は「紀伊山地の霊場と参詣道」の2004年である。数年に1件登録されるかどうかというペースでなされてきた世界文化遺産登録の動きが、2011年から相次いで登録されたことを、本研究は考慮せざるを得なかった。後者については、前者とも連動しているとも言え、2011年登録の「平泉」は、大震災からの復興という社会的な役割をも担っていたと言える。世界文化遺産登録が相次いだことや、世界文化遺産登録に対する役割に災害からの復興という意味が付与されたことで、地域社会と暫定リストという関係を捉える枠組みを修正し、本研究は、地域社会の観光資源を通してどのように過去を伝えていくのか、ということについて研究を進めることとなった。著書(分担執筆)1件、論文1件を発表したが、集められた資料やデータを次の研究テーマに展開することを意図し、新たな研究計画の構想に取り組んでいる。
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