研究課題/領域番号 |
23615003
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
森 勝伸 群馬大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70400786)
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キーワード | クロマトグラフィー / イオン / 分離 / 抽出 / 環境低負荷 / 水 |
研究概要 |
本研究は,工場排水や血液等の高分子を含む試料からイオンを選択的に抽出する前処理からイオンクロマトグラフィー(IC)による分離分析までを,全て水で行う究極的なICシステムを開発することを目的に,今年度は前年度に掲げた課題を基に,下記を検討した. 1. イオン抽出セル:初めに,イオン抽出セルのイオン交換膜の膜厚,形状を見直した.その結果,当初から使用している膜厚及び形状が最も効率的に試料溶液からイオンを抽出できることが分った.次に,陽イオン交換膜と陰イオン交換膜に付着した不純物(ナトリウム及び塩化物イオン)が試料イオンの抽出を妨害することが明らかとなったことから,膜の洗浄方法を検討した.結果的に40 kV以上を印加しながら水を2時間程度流すことで解決することができた.また,1価の金属陽イオン,pKaが4以下の陰イオンはイオン抽出セルに20 kV以上印加することで,定量的に回収することができた.また,イオン抽出セルの連続操作での耐久性を確認したところ,連続200回以上測定しても定量的にイオンを抽出できることを見出した. 2. 分離カラム:昨年度構築したカラムと水溶離液によるイオンの分離能及び理論段数を調べた.固定相の基材であるODSシリカの粒径(2~5 um),官能基である両イオン性界面活性剤の種類を検討したことで,理論段数は改善されたが,分離能は改善することができなかった.これはイオン抽出セルから抽出される陰イオン及び陽イオンがそれぞれ酸及び塩基の形態になっており,固定相が酸や塩基に対して分離選択性が低いことが原因であることが分った.現在は,試料イオンの分離挙動に及ぼす対イオンの影響について検討している. 3. イオン抽出セルと分離カラムの接続:上述1と2を接続したときの試料イオンの分離分析を試みたところ,試料のイオン抽出から分離分析までを水のみで行うことができることを実証した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は1)イオン抽出セルの性能評価,2)分離カラムの機能向上,3)イオン抽出セルと分離カラムの接続を行い,次のような成果が得られた.1)ではイオン抽出セルによって試料イオンを定量的できる条件を最適化することができ,当初の計画以上に進展していると判断される.2)ではクリックケミストリーによってODSシリカゲルと両イオン性界面活性剤を簡単に結合できるようになったが,試料イオンの分離能が充分に改善されていない.これは,分離カラムの性能だけでなく,分離されるイオンの形態にも大きく影響している.3)ではイオン抽出セルと分離カラムを接続し,水のみで試料イオンの輸送を行ったところ,抽出から分離分析までオンラインで行うことができた.従って,今後は分離カラムの固定相と試料イオンの形態との相性を想定した分析システムの構築が必要と考えられる.また,本研究に関連して平成24年度までに国際学会誌の論文が8件,学会発表が13件となっている. 以上を総合的に判断した結果,本研究は「おおむね順調に進展している」と結論する.
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今後の研究の推進方策 |
1.実試料からのイオン抽出:イオン抽出セルの構築において最終的な目標である環境水,食品試料からのイオンの抽出を行い,標準試料からイオンを抽出したときの性能比較を行う.また,イオン抽出セルの濃縮効果も調査する.この検討は下記3と併せて行う.主な分析対象イオンとしては,環境水試料では無機陽イオン,無機陰イオン,食品では有機酸イオンを予定しており,いずれも定量的に回収できることを見出している. 2.分離カラムの最適化:ODSシリカゲルと両イオン性界面活性剤を簡単に結合できるようになったが,試料イオンの分離能が充分に改善されていない.これは,分離カラムの性能だけでなく,分離されるイオンの形態にも大きく影響していることから,分離カラムの固定相と試料イオンの形態との相性について検討する.現在のところ,陰イオンをナトリウム塩(例えば,NaCl,NaNO3)に変換すると分離能が向上することが明らかとなっている. 3.イオン抽出セルと分離カラムを接続:分離カラムへの輸送効率,分離能及び検出感度の影響を調べ,実試料への応用を試みる.この検討は,上記1と2と並行して行う. 以上,実験1~3の研究期間は平成25年4月から平成26年1月までとし,本研究の成果について,学会発表は随時,論文発表は平成26年2月までに行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
設備備品費:なし(0円) 消耗品費:試薬類:100千円;実験機材:430千円(本装置に用いる配管,セル周辺機材,サンプルインジェクター,充填用のカラム等);ガラス器材:50千円 旅費:国内旅費・学会発表:討論会(北海道大学水産学部・函館)3日間・80千円;定期年会(近畿大学・東大阪)3日間・50千円;国際会議:Pittsburg conference 2014(シカゴ) 6日間 300千円 その他:会議費(群馬大学):0千円;印刷費:0千円;成果発表費用:90千円
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