これまでに開発してきた磁性粒子プローブと各種の質量分析法(MS)を連結した計測方法を、細菌における薬剤耐性の有無の判別に応用する一連の実験を行った。 まず、マトリックス支援レーザー脱離イオン化MS(MALDI-MS)をMS装置に利用して、薬剤耐性菌の迅速判別を試みた。ここでは、消毒薬の一種である、トリクロサンに対して耐性を有する大腸菌を試料に用いた。まず、大腸菌に特異的に作用する抗体で表面修飾した磁性ビーズをプローブとして用いて、当該細菌の懸濁液から、大腸菌の選択捕集を行った。次に、この大腸菌を捕集した磁性ビーズ試料をMALDI-MSにより解析したところ、大腸菌を構成する各種リン脂質成分を高感度に検出でき、さらに、その成分組成を基にして、大腸菌における薬剤耐性の有無を10分程度の短時間で判定することが可能になった。 さらに、反応熱分解ガスクロマトグラフィ-/MS(反応熱分解GC/MS)をMS部として用いて、薬剤耐性大腸菌の簡便な判別分析を行った。ここでは、様々な反応試薬,その濃度,および反応温度などの各種パラメーターを検討した結果,化学試薬として強有機アルカリの一種である水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を使用し,その濃度を25 w/w %,また反応温度を400℃に設定したときに,大腸菌に含有される脂肪酸成分を明瞭に検出できることを見出した。さらに、得られた脂肪酸成分の化学組成が薬剤耐性の有無に応じて変化することが明らかとなり、その組成の違いを手掛かりにして、薬剤耐性判定を試料前処理操作を一切行わずに簡便に実施することが可能になった。
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