本研究では、脂肪酸(脂肪)の放射線分解物である2-アルキルシクロブタノン類について、2次代謝産物の多い植物性食品中での高感度分析法を開発し、照射後の消長を明らかにする。これにより、照射食品中の2-アルキルシクロブタノンに由来する健康影響(リスク)評価の基本となる、暴露量評価の基礎データの取得を目指す。また、同時に低線量(検疫処理線量)を照射した農産物の検知技術への応用の可能性を探ることを目的とする。 最終年度の25年度は、モデル脂質のトリグリセリド(トリパルミチン、トリステアリン、トリオレイン)のガンマ線照射と加熱時の2-アルキルシクロブタノンの生成についての確認を行なった。その結果、ガンマ線照射では、脂肪酸側鎖に対応する2-ドデシルシクロブタノン(2-dDCB)、2-テトラデシルシクロブタノン(2-tDCB)、2-テトラデセニルシクロブタノン(2-tDeCB)が、数nmole/mg先駆脂肪酸/kGy程度の効率で精製することが確認されたが、加熱処理では、これらの化合物は検出されなかった。 研究期間全体を通じて、植物性食品の大豆、ナツメグ、カシューナッツについて、ガンマ線照射による2-アルキルシクロブタノンの生成効率の検討を行い、1 kGyの照射により、前駆体脂肪酸1 mmoleから生成する2-ACBsの量は、1.1 nmole ~ 3.8 nmoleと、既報の動物性食品類と同レベルであること、一方で、天然存在が報告されているナツメグ、カシューナッツでは、GC-HRMSによる高感度分析法を用いても、2-ACBsは検出されないことを確認した。また、照射したナツメグを室温で30週貯蔵した際には、2-デシルシクロブタノンおよび2-dDCBの含量が、65%程度に減少することを確認した。 以上の研究から、植物性食品の照射履歴を2-ACBsを指標として、検知できる可能性が示された。
|