マイクロ粉砕抽出法を応用した新たな毛髪中薬物抽出法について、今年度は13種類の代表的な睡眠導入剤にターゲットを広げると共に、高分解能質量分析が可能な四重極-オービトラップハイブリッド型質量分析計(QExactive)を用いて、選択性の向上と高感度化を試みた。昨年度の成果である毛髪中ゾルピデムの分析では、必要な試料量は10 mgであったが、今回は5 mgで可能であった。その場合の定量限界は1~4 pg/mg(薬物によって異なる)であった。ジアゼパム、フルニトラゼパムおよびゾルピデムに対するバリデーション結果について、これまでに報告されている12報の毛髪分析法と比較したところ、本法は抽出時間が最も短いうえに、実質的な感度を表す「必要な毛髪量×定量下限」が最も小さく、これまでの毛髪分析法よりもそれらの点で優れていることが明らかとなった。 倫理審査委員会の承認を得て、本法を用いて不眠症患者の毛髪を分析した結果、ブロチゾラム、ロフラゼプ酸エチル、フルニトラゼパム、ゾルピデムを毎日服用している患者Aの黒髪からは、ブロチゾラムが8.8 pg/mg、ロフラゼプ酸エチルの代謝物であるデスメチルフルジアゼパムが443 pg/mg、フルニトラゼパムが46.0 pg/mg、ゾルピデムが10.2 pg/mg検出された。週1回程度エチゾラムとゾルピデムを服用している患者Bからは、60.0 pg/mgのゾルピデムが検出されたが、エチゾラムについては定量下限(4 pg/mg)未満の小さなピークしか観測されなかった。週1回程度エチゾラムを服用している患者Cからは、エチゾラムが4.9 pg/mg検出された。ゾピクロンを毎日服用している患者Dのゾピクロン濃度は、黒髪においては定量上限の10 ng/mg以上であったが、白髪においては187 pg/mgと黒髪より大幅に低かったことから、ゾピクロンがメラニンに依存して毛髪に取り込まれることが確認された。
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