研究課題/領域番号 |
23616006
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
尾畑 やよい 東京農業大学, 応用生物科学部, 准教授 (70312907)
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キーワード | 生殖細胞 / ゲノム刷込み |
研究概要 |
今年度は、KDM1Bタンパク質の発現解析を可能にするためにモノクローナル抗体の作製を試みたが、抗原を認識する抗体の作製には至らなかった。そこで、マウスでの解析例が無い市販のポリクローナル抗体を解析に使用することにした。 次に、卵子形成過程におけるKDM1Bの発現解析行うために、野生型マウスおよび生殖細胞形成過程でKDM1Bを発現するようデザイン・作製されたTGマウス(前年度作製)より卵巣および卵母細胞を採取した。mRNAの発現解析を実施した結果、野生型マウスの非成長期卵母細胞においてもKdm1b mRNAが高発現していることが明らかとなり、これまでの報告と反する結果になった。一方、Western解析の結果、野生型マウスでは既報と同様に、非成長期卵母細胞のみが含まれる新生仔マウスの卵巣ではKDM1Bの発現が認められず、成長期卵母細胞でKDM1Bの発現が認められた。TGマウスにおいては、Kdm1b cDNAとレポーター遺伝子mCherryの配列が2A配列を挟んでタンデムに連結されているため、mCherryによってKDM1Bのタンパク質の発現が追跡できるよう設計してある。得られたTGマウスの新生仔卵巣はmCherryの高発現が認められた。しかし、Western解析の結果、TGマウスの新生仔卵巣でKDM1Bの発現は認められなかった。この結果は複数のTGラインで同様に観察され、ゲノム中にTGが正しく挿入されていること、野生型マウスでmRNAの発現とタンパク質の発現がリンクしていないこと、培養細胞でTGを一過性発現させた場合にはタンパク質に翻訳されていることなどの点から、卵母細胞では、Kdm1bはmRNAからタンパク質に翻訳される過程で、何らかの制御を受けている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、卵子形成過程におけるKDM1Bの発現解析を野生型マウスおよびTGマウスで解析することができたが、mRNAの発現とタンパク質の発現がリンクしていない点は予期せぬ結果であった。しかし、卵子形成過程でKDM1Bの転写後調節が存在する可能性が示唆され、これらを明らかにすることができれば、研究調書作成当初とは異なる視点でKDM1Bのゲノム刷込みに果たす役割の解明につながるものと考えられた。また、精子形成過程における発現解析をまだ行っておらず、次年度以降、野生型雄マウスとTG雄マウスにおけるKDM1Bの発現解析を実施して行く予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、野生型マウスおよびTGマウスを用いて、精子形成過程におけるKDM1Bの発現解析を行う。KDM1B欠損は精子形成過程で確立するインプリントに影響せず、卵子形成過程で確立するインプリントに必須の分子であることが既に報告されている。もし、TGマウスの精子形成過程において、KDM1Bタンパク質の発現が誘導された場合には、前精原細胞においてインプリント遺伝子のメチル化解析を実施する。この解析により、KDM1Bが卵子あるいは精子特異的なインプリントに果たす役割を明らかにする。一方、卵母細胞同様に精原細胞においてもKDM1Bタンパク質の発現が誘導されなかった場合は、生殖細胞におけるKDM1Bの転写後調節について以下の解析を行う。 これまでの研究で、TGマウス作製に用いたvectorを培養細胞に導入した場合には、mCherryの発現のみならずKDM1Bタンパク質の発現も確認されている。そこで、KDM1Bの転写後調節が、生殖細胞に特異的なものか否かを解析するために、全身でKDM1Bを発現誘導するためのTGマウスを作製し、各種臓器におけるKDM1BのmRNAとタンパク質の発現解析を実施する。この解析によりKDM1Bの翻訳制御とインプリント確立の関係について考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
消耗品の内訳として、解析用のマウス、抗体、メチル化解析キット、RNA抽出キット、PCR関連酵素などを主として計上する。
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