DNAメチル基転移酵素DNMT3A/3LとヒストンH3K4脱メチル化酵素KDM1Bは、いずれかを欠損すると卵子のゲノム刷込みが不完全となることから、ゲノム刷込みに必須の機構であることが既に報告されている。今年度は、KDM1Bが卵子のゲノム刷込みにどのような役割を果たしているか、すなわち、DNMT3A/3Lが卵母細胞ゲノムのインプリント領域にアクセスする為の分子機構としてKDM1Bは十分な分子であるか否かを解析した。KDM1B依存的にDNAメチル化インプリントを獲得するZac1およびMestに着目し、内在性DNMT3A/3Lの発現レベルが低い成長初期の卵母細胞で、DNMT3A/3Lを過剰発現させ、Zac1およびMestのDNAメチル化解析を行った。その結果、野生型マウスの成長初期卵母細胞では、Zac1およびMest領域のメチル化レベルは30%未満と低かったが、DNMT3A/3Lを過剰発現させたTgマウスの成長初期卵母細胞ではZac1領域のメチル化レベルは90%以上と高メチル化状態を示した。しかしこれに対し、Mest領域のメチル化レベルは30%未満と依然として低メチル化状態であった。 以上の結果から、DNMT3A/3Lが卵母細胞ゲノムのインプリント領域にアクセスする為の分子機構として、KDM1BによるヒストンH3K4の脱メチル化は必須であるが、少なくともMest領域については、KDM1B以外の分子機構を必要とすることが強く示唆された。
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