本研究はエキソソームの網羅的解析を行うことで、スフィンゴミエリンの新たな栄養機能を見出すことを目的として実施した。昨年度までの研究により、肝癌細胞にスフィンゴミエリンを添加することで分泌されるエキソソーム中のmiRNA構成が変化し、変化したmiRNAを介して、スフィンゴミエリンの癌細胞増殖抑制作用が発揮されることを見出した。 また分泌されるエキソソームには、スフィンゴミエリンによる量的な変動は起きていないことも確認された。最終年度にはスフィンゴミエリンを経口摂取した際に血中エキソソームにどのような変化が起きるかを検討した。その結果、スフィンゴミエリンを体重1 kgあたり100μgの用量で、8日間経口摂取させたラットの血液より調製したエキソソームをL6筋管細胞に添加したところ、筋管細胞によるグルコース消費が対照群と比べて有意に増加することを見出した。その際の対照群としてはスフィンゴミエリンを懸濁させた緩衝液を同様に経口投与したラット血液より調製したエキソソームを用いた。この結果はスフィンゴミエリンを経口摂取することにより血中エキソソームの生理作用が変化したことを意味している。スフィンゴミエリンを高濃度に含有するミルク由来脂質画分をラットに摂取させることで糖代謝が改善することを報告した例があるが、本研究で得られた結果はその作用の一部がエキソソームを介したものである可能性を示唆するものであり、スフィンゴミエリンの新たな栄養機能を示唆するものと考えている。血中エキソソームの構成に関する網羅的解析は期間内に実施することはできなかったが、含有されるmiRNAの変動などに関してさらに検討することで、詳細な分子機構が明らかになることが期待される。
|