研究課題
【研究目的】アルツハイマー病の病態は遺伝子変異の解明から飛躍的な発展を遂げている。しかし、アルツハイマー病の90%以上は遺伝子変異がなく、発症機構が不明のままである。よって、治療は一時的な対症療法が主体である。そこで、病態の解明と新たな治療・予防法の解明が急務であり、世界中で関連研究がなされている。本研究は、アルツハイマー病の危険因子(糖尿病、肥満)に関連する小胞体ストレスシグナルとアミロイド-β産生との関わりに焦点を絞り、アルツハイマー病発症に対する新規知見を確立しようとするものである。ATF4は小胞体ストレス刺激により活性化する転写因子であり、アミロイド-β産生を促進させることを明らかにしている。これらの成果を踏まえ、本研究の目的は、(1)脳内の転写因子ATF4活性化がアミロイド-β産生を促進させるか明らかにする (2)ATF4によるアミロイド-β産生促進が記憶と学習の低下に関連するか明らかにする (3)ATF4の抑制が記憶と学習の改善に寄与するか明らかにする ことである。【研究成果】前年度の成果を踏まえ、オートファジー機能低下細胞において、ケルセチンによる、1)eIF2α特異的な脱リン酸化関連遺伝子(GADD34)の誘導と、2)ATF4の発現抑制およびアミロイド-β産生抑制作用を明らかにした。さらに、3)加齢マウスにおいて、ケルセチン摂取による記憶増進と海馬におけるGADD34タンパク質の増加の関連性を示唆する結果を得た。以上の研究成果から、GADD34の発現を介した小胞体ストレスシグナル調節機構を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、認知・記憶障害に対するATF4の役割を明確にするために、eIF2α特異的な脱リン酸化関連遺伝子(GADD34)の作用を細胞とマウス個体にて検討し、ケルセチンの効果を明らかにした(論文投稿準備中)。APP23アルツハイマー病モデルマウスにおけるATF4およびGADD34の役割に関しては現在進行中である。
平成23-24年度に得られた成果を基にして、APP23アルツハイマー病モデルマウスを使用し、詳細に行動解析を実施する。以下のマウスにおいて、恐怖条件付け記憶、空間作業記憶(Y-迷路)と作業記憶・参照記憶(八方向放射状迷路)の変化を解析する。また、脳内アミロイド-β産生の変化を解析する。◇ APP23アルツハイマー病モデルマウスはヒトアミロイド前駆体タンパク質(APP)を高発現している。II型糖尿病・肥満モデルマウス(db)およびATF4ノックアウトマウス(医薬基盤研究所 実験動物研究資源バンクより分譲)との交配を行う。◇ APP23アルツハイマー病モデルマウスに長期間ケルセチンを摂取させ、生化学・病理学的解析を行う。計画は順調に進んでおり、マウスの交配および行動解析を進める。
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brain research
巻: 1488 ページ: 1-13
10.1016/j.brainres.2012.10.001