研究課題/領域番号 |
23617009
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
林 達也 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (00314211)
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キーワード | 骨格筋 / AMPキナーゼ / インスリン / 糖代謝 / シグナル伝達 / 運動 / 機能性食品 / 生薬 |
研究概要 |
近年の疫学調査により、カフェイン含有飲料の習慣的摂取が糖尿病発症リスクを低下することが報告され、カフェインが抗糖尿病効果をきたすメカニズムが注目されるようになった。我々は、カフェインが、体内最大の糖代謝器官である骨格筋に存在する蛋白質リン酸化酵素5'AMP-activated protein kinase(AMPK)を活性化することで、糖代謝の活性化を誘導する可能性を明らかにしてきた。しかし、一方で、コーヒーの抗糖尿病効果がカフェインレスコーヒーによっても認められることが報告されている。そこで我々は、コーヒーに含まれるカフェイン以外の主要生理活性物質であるカフェ酸とクロロゲン酸とに注目し、これらによるAMPK活性化の可能性を検討した。その結果、ラット単離骨格筋インキュベーション系において、カフェ酸が、AMPK活性化の指標であるαサブユニットThr172リン酸化及びAMPKの内因性基質の一つであるacetyl Co-A carboxylaseのリン酸化を、用量・時間依存的(≧0.1 mM、≧30分間)に亢進することが明らかになった。クロロゲン酸はこれらの作用を示さなかった。カフェ酸は、カフェインと同様に、骨格筋のエネルギー状態(クレアチンリン酸含有量)を低下させ、糖代謝活性の指標である3-O-methyl-D-glucose輸送活性を有意に亢進した。AMPKはα、β、γサブユニットからなる3量体で、その酵素活性はαに存在し、骨格筋ではα1、α2の2種類が発現している。我々はすでにカフェインがα1を優先的に活性化することを報告しているが、カフェ酸はα2を優先的に活性化する性質を有した。以上の結果は、カフェ酸がカフェインとは異なった機序を介して骨格筋AMPKを活性化するとともに、コーヒーの抗糖尿病効果発現にカフェ酸による骨格筋AMPKが関与している可能性を示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コーヒーの抗糖尿病作用に関して、従来検討してきたカフェインに加え、カフェ酸、クロロゲン酸に関しての検討を行い、カフェ酸が骨格筋AMPKを活性化する可能性を明らかにした。また、古来東洋において健康飲料として用いられてきたプーアル茶の骨格筋AMPKに対する検討を行い、その研究過程で、プーアル茶水溶性抽出物が骨格筋AMPK活性に変化を与えない一方で、糖および蛋白質代謝の重要な制御分子であるAktの活性化作用を持つことを明らかにした。以上の知見はいずれも原著論文として世界に先駆けて国際的専門誌に報告した。以上のことから、研究が順調に進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
コーヒーの抗糖尿病作用に関しては、カフェインとカフェ酸が、安静状態(非収縮時)の骨格筋代謝のみならず、運動時(収縮時)の骨格筋代謝に与える影響を含めて検討してゆく予定である。また、プーアル茶のAkt活性化に関しては、その生理活性成分を同定するとともにAktが活性化するメカニズムの詳細を明らかにしてゆく。さらに、現在基礎検討を続けているAMPKを活性化する食品由来成分(レスベラトロールなど)についても、骨格筋糖・脂質・エネルギー代謝に及ぼす影響を中心に引き続き検討を続けてゆく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該研究においてはすでに研究のための設備が整っているため、実験動物や薬品などの物品火にその大半を使用する予定である。その他の用途として、学会における研究発表・情報集のための旅費や参加費、論文の投稿料や別刷作成、英文校正に主要する予定である。
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