研究課題/領域番号 |
23617015
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
熊谷 裕通 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 教授 (40183313)
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キーワード | 慢性腎臓病 / 筋萎縮 / テストステロン / ユビキチン・プロテアソーム / 食事療法 |
研究概要 |
本年度は、研究計画にそって次の3つの研究を行った。 (1) 培養筋細胞における生理活性物質の作用に関する基礎的研究:昨年度までに、培養骨格筋細胞において、慢性腎不全患者の栄養障害を惹起する因子である炎症、アシドーシス、化学的低酸素、糖・アミノ酸の欠乏は、Angiopoietin like protein 4 (ANGPTL4)の発現を増加させることを明らかにしたので、本年度はその細胞内機序について検討した。その結果、筋肉細胞において、グルコースとアミノ酸の欠乏によりPPARγを介してANGPTL4が発現する機序の存在が明らかとなった。 (2) 慢性腎不全モデルラットにおける筋萎縮の機序の検討:慢性腎不全モデルラット(5/6腎摘群)ではコントロール群に比べて、ユビキチン・プロテアソーム系に関わる遺伝子MuRF-1が有意に高値であり、Atrogin-1も高値傾向を示した。IGF-1もまた、腎不全群で減少していた。以上の結果から慢性腎不全では、蛋白異化に関わるユビキチン・プロテアソーム系の発現亢進と合成系の低下により筋萎縮が進展すると示唆された。しかし、5/6腎摘群における低蛋白食摂取群と通常蛋白摂取群との間に骨格筋におけるmRNAの発現量に有意な差は見られなかった。この結果から、腎不全患者に腎機能保持のため低蛋白食を処方することが栄養障害の原因となることは示されなかった。 (3) 慢性腎臓病患者における筋萎縮の検討:本年度は、透析患者におけるテストステロンおよび筋萎縮と予後との関連について検討した。今回検討した220名の男性透析患者において、血清テストステロン値のレベルと予後との関連は見られなかった。この結果は欧米の透析患者における結果とは異なるものであったが、その理由は今回の検討からは明らかにならなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画では3つの研究を予定していたが、それらはいずれも概ね順調に進んだ。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに特に、慢性腎不全モデルラットを用いた研究で顕著な結果が得られ、今後の発展が期待できるため、次年度は、この実験に集中に取り組むことを予定している。 (1)慢性腎不全モデルラットにおける筋萎縮の機序の検討:蛋白異化に関わるユビキチン・プロテアソーム系の発現にはアンジオテンシンIIが関わっているという報告がある。慢性腎不全では、レニン・アンジオテンシン系が亢進するため、我々の研究で観察されたMuRF-1やAtrogin-1の発現亢進は、アンジオテンシンIIを介している可能性が高いと思われる。そこで、慢性腎不全モデルラット(5/6腎摘群)にアンジオテンシンII阻害薬を投与し、MuRF-1やAtrogin-1の発現が正常化するか否か、筋萎縮が改善されるか否かを検討する。同時にIGF-1などについても測定して、筋合成系への影響についても検討する。 (2)慢性腎不全モデルラットにおけるアルブミン合成低下の機序の検討:慢性腎不全では、筋肉萎縮と同時にアルブミン合成も低下するが、この機序も明らかにされていない。そこで、本年度は、慢性腎不全モデルラットにおいて、肝臓でのアルブミン合成の変化とその機序について検討する。また、アンジオテンシンII阻害薬の効果についても検討を行う。 (3) 低たんぱく食が慢性腎不全モデルラットにおける筋代謝やアルブミン合成に与える影響の検討:低たんぱく食は慢性腎不全の食事療法に用いられているが、低たんぱく食が慢性腎不全患者の筋肉代謝やアルブミン代謝にどのような影響を与えているかは、十分明らかになっていない。そこで、上記のモデル動物を用いた検討において、低たんぱく食を与える群を作成し、その影響を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、慢性腎不全モデルラットを用いた研究で優れた成果が得られると判断したので、この研究に研究費を集中させる。
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