本年度は、研究計画にそって次の2つの研究を行った。 (1)慢性腎不全モデルラットにおける筋萎縮の機序の検討:5/6腎摘群の体重、腓腹筋は、コントロール群に比べて有意に低値を示し、腎不全による筋肉量の減少が確認された。5/6腎摘-普通たんぱく食群と5/6腎摘-低たんぱく食群との間で、体組成に有意な差はみられず、低たんぱく食はたんぱく質エネルギー栄養障害の原因ではないと考えられた。筋肉内IGF-1mRNA発現は5/6腎摘群で低値を示し、腎機能の低下に伴い筋蛋白の合成低下が生ずることが示唆されたが、MuRF-1およびatrogin-1のmRNA発現は、すべての群において有意差がなく、筋蛋白分解の亢進は確認されなかった。これらの結果から、腎不全では筋蛋白の合成低下により、筋肉量が減少することが明らかになったが、低たんぱく食は筋代謝に大きな影響を与えないことが明らかとなった。 (2)慢性腎臓病患者における筋萎縮の検討:本年度は、透析患者における血中プロテアソーム濃度と筋萎縮の関連について検討した。血中プロテアソーム濃度は、腹部筋肉面積(r=-0.26、p<0.05)とクレアチニン産生速度(CGR)(r=-0.23、p<0.05)との間に有意な負の相関が認められた。また、大腿筋面積(r=-0.20、p=0.07)及び透析前血中クレアチニン濃度(r=-0.20、p=0.09)は負の相関傾向にあることが示された。この結果より維持血液透析患者において血中プロテアソーム濃度は筋肉代謝障害の指標になる可能性が示唆された。 三年間の研究により、慢性腎臓病において、腎不全が筋蛋白合成の低下を介して筋肉量を低下させること、腎不全の進行を抑制させるための低たんぱく食の筋代謝への影響は軽微であること、テストステロンやプロテアソームが筋萎縮の指標になることが明らかとなった。
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