昨年度までの結果より、高脂肪食(60%エネルギーが脂肪由来)投与肥満モデルマウス精巣においては、標準食(10%エネルギーが脂肪由来)投与マウスの精巣と比較して、脂質代謝に関与する遺伝子発現の上昇が見られたが、精子の形成に関わる遺伝子の発現に差が見られなかった。また、精巣上体尾部より取り出した精子数も変化が無かった。これより、肥満マウスにおいては精子形成過程に加えて精巣上体や輸精管における精子成熟の過程が上手くいかないために、精子運動能が低下する可能性も予測された。そこで本年度は肥満モデルマウスを作成し直し、精子が濃縮されている精巣上体の遺伝子発現を調査した。 精巣上体尾部より全RNAを抽出し、雄性不妊に関連している84遺伝子についてPCR-Array解析を行った。その結果、DNA組換え修復に関わる一遺伝子の発現量上昇とpiRNA産生に関わる一遺伝子の発現量低下、およびヌクレオソーム構成タンパク質のヒストンからプロタミン置換に関与する一遺伝子の発現量低下を見いだした。また有意差は見られなかったが、SOD1およびSOD2遺伝子の発現量の上昇傾向が観察された。これらの結果より、肥満に伴って活性酸素ストレス状態に有ること、piRNA産生量の低下に伴ってクロマチン凝集度やプロタミンタンパク質へのクロマチンの置換が正常に進んでいないこと、その結果精子染色体DNAの損傷が引き起こされ、DNA組換え修復に関わる遺伝子が増加していることが示唆された。piRNAの産生低下はエピジェネティックにトランスポゾン遺伝子を活性化させる。今後、肥満に伴う精子クロマチンの損傷との関連を調べる予定である。
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