浸潤性膵管がんの易罹患性座位としてメチオニン合成酵素還元酵素(MTRR)を同定した。このMTRRは膵がんの予防要因として可能性が高いという評価が与えられている葉酸の代謝系関連酵素である。本研究は、MTRRの機能解析および葉酸代謝経路において最も詳しく特徴づけられているメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)の遺伝子多型とがんに特徴的なゲノム全体の低メチル化との関わりを明らかにし、膵がんに対する応用を目指すものである。これまでの研究からMTHFRにおいては、677CC (Ala) あるいは1298AA (Glu)野生型に比較して677TT (Val)あるいは1298CC (Ala)表現型ではMTHFR蛋白質発現量の低下、培地中のホモシステイン濃度(Hcy)の上昇およびゲノム全体のメチル化レベルの減少することを見出した。一方、MTRRにおいては、66GG (Ile)野生型に比較して66AA (Met)表現型では培地中のHcyの軽度の上昇を認めたが、メチル化レベルに変化は認めなかった。しかしながら、MTRR遺伝子のノックダウンによりメチル化レベルは減少した。またMTHFRの培養細胞への遺伝子導入により培地中のHcyを劇的に減少させた。血漿Hcyの上昇は心血管疾患や胎児の神経管欠損に対する独立危険因子で、一部のがんや骨粗鬆症にも関与しているこが示されており、これらの疾患による新たな治療法の開発にもつながることが期待される。葉酸欠乏はDNA修復活性の低下によるゲノム不安定性や突然変異率の増加およびDNAメチル化異常に関与し、がんの発生や進展に関っていることから、葉酸の個人間での摂取能力の要因やゲノム全体のメチル化にMTHFRおよびMTRRの遺伝子多型が深く関与している。このことは難治性がんの代表である膵がんにとどまらず、全がんに対する有効・適切な予防法につながると考えられる。
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