研究概要 |
GLUT4 (Glucose Transporter 4) は骨格筋、心筋、脂肪細胞に発現するグルコース輸送体であり、インスリン依存的に細胞質から膜表面へと移行する。一般に肥満や2型糖尿病患者においては、脂肪細胞のGLUT4の発現は減少するが骨格筋における発現は変わらない。肥満や2型糖尿病患者に認められる耐糖能異常において、脂肪細胞におけるGLUT4発現低下が何に関与しているのかは不明であった。脂肪細胞特異的GLUT4欠損マウスを用いた研究で、このマウスのインスリン抵抗性の原因遺伝子が、血中におけるビタミンA輸送タンパクとして知られているRBP4 (Retinol Binding Protein 4)であることが示された。しかしながら、なぜインスリン抵抗性による脂肪細胞GLUT4の発現減少がRBP4発現増加につながるのか不明である。 そこで我々は、脂肪細胞特異的GLUT4欠損マウスの細胞モデル系を作成し、RBP4遺伝子発現調節機構を明らかにしようと試みた。その結果、RBP4遺伝子プロモーター上にGLUT4ノックダウン依存的な転写活性化配列を見出し、そこに結合する因子として20Sプロテアソームサブユニットの一つPSMB1を同定した(Inoue, et al., J. Biol. Chem. 2010: 285(33): 25545-25553.)。PSMB1はGLUT4ノックダウン依存的にDNA結合が強くなるが、これはPSMB1自身の細胞質から核への移行が促進したことによることを明らかにすることができた。また、この核移行がPSMB1分子内の特定のアミノ酸のリン酸化と関連していることが示唆された(Yamauchi J, et al., Biosci Biotechnol Biochem. 77(8):1785-1787 (2013)。 本研究結果は、タンパク質代謝系としてのプロテアソーム、脂質代謝異常に関係するインスリン抵抗性およびビタミン代謝に関与するRBP4といった、生体内で独立していると考えられていた各代謝系が密接に相互作用している可能性を示唆している。
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