研究実績の概要 |
コエンザイムQ(CoQ)が老化や寿命を制御するか明らかにする為、CoQ産生量の少ない遺伝子導入マウスを多産系統のICRマウスと交配した。得られたTgマウスは雌雄共に野生型に比べ寿命が有意に延長した。しかし予想に反しTgマウスの肝臓、脳、骨格筋におけるCoQ量は野生型マウスと同レベルであった。原因は他系統との交配によりCoQ産生能が回復した為と考えられた。但しTgマウスは雌雄共に野生型マウスに比べ体重、全身酸素消費が有意に低下し、骨格筋も有意に軽く、筋肉の酸素消費量、ATP量も有意に少なかった。これらの結果から、Tgマウスでは、骨格筋および個体レベルでの代謝低下により個体の小型化と寿命延長が誘導されたと考えられた。 一方、正常老化過程において他臓器(心臓、肝臓、腎臓)に先立ちミトコンドリア(Mt)酸素消費が有意に低下した雄マウス脳に対しCoQの効果を解析した。老齢マウスに水溶性CoQを飲水投与した結果、脳Mtの酸素消費が若齢レベルにまで回復した。この結果は飲水投与したCoQは脳関門を通過し、細胞のMtに取り込まれ生理機能を発揮する事を示している。 最終年度は加齢に伴う脳Mt機能低下の原因とCoQによる回復機構を解析した。その結果、呼吸鎖複合体CIの発現レベルが老齢マウスで有意に低下している事を見出した。さらにCoQを飲水投与した老齢マウスの脳MtではCI発現レベルに変化は無かったが、CII, CIII, CIVの発現レベルが低下した。この結果はCoQが各複合体間の発現バランスの調節を介して、Mt酸素消費を制御している可能性を示唆している。 今回寿命に対するCoQの直接効果は観察できなかったが、骨格筋および個体レベルでの代謝低下が寿命延長に関与していることを明らかにした。また、加齢に伴う脳Mt機能の低下は短期のCoQ飲水投与により完全に回復可能であることが証明された。
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