研究課題/領域番号 |
23618002
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
竹原 有史 旭川医科大学, 医学部, 特任講師 (90374793)
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研究分担者 |
川辺 淳一 旭川医科大学, 医学部, 特任准教授 (10400087)
長谷部 直幸 旭川医科大学, 医学部, 教授 (30192272)
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キーワード | 国際情報交換 |
研究概要 |
①マウス心臓由来Sca-1陽性心筋幹細胞(Sca1-CSC)へのApe1遺伝子導入及び虚血耐性機序の検討 虚血耐性・DNA修復機能遺伝子Ape1の機能解明並びに心保護効果を検討する為にSca1-CSCにおけるApe1遺伝子Tg系を樹立した。移植細胞のtracingを可能とするためにpRetro-IRES-DsRedベクターを基にヒト全長cDNAを同レトロベクターに組み込み、Sca1-CSCへの遺伝子導入を行いFACS AREAによるSortingにより、Ape1-Sca1-CSC並びにcontrol細胞であるDsRed-Sca1-CSCの純化に成功した。一方、細胞導入療法において移植細胞は虚血環境下で効果を発現しなければばらない。Sca1-CSCにおいてin vitroでH2O2(500nM)による虚血負荷(6時間)を行ったところ、約34%の細胞にTUNEL陽性が観察された。Ape1-Sca1-CSC及びDsRed-Sca1-CSCを用いてアポトーシス誘導を検討したところH2O2負荷によりDsRed-Sca1-CSCにおいて35.4%のTUNEL陽性細胞が観察されたが、Ape1-SCa1-CSCにおける出現頻度は2%とアポトーシスが著明に抑制されていた。 ②虚血再還流梗塞マウスにおけるApe1-Sca1-CSC移植による心保護効果 虚血再還流系において平均8.2%の梗塞量を有する梗塞モデルの作成に成功した。本モデルを用い、Ape1-Sca-CSC導入療法の心保護効果を検討する目的にSham、placebo、DsRed-Sca1-CSC、Ape1-Sca1-CSC移植の4群ランダム比較対照試験を現在実施中である。現時点でplacebo及びDsRed-Sca1-CSC群における心機能低下は、Ape1-Sca1-CSC群では左室駆出率で約6%抑制され、梗塞量も4.1%抑制されていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度における実験計画において発生した課題に対し、平成24年度はこの課題の克服が実現できている。具体的には (1)虚血再還流モデルの冠動脈結紮時間によっては、梗塞範囲が過小もしくは過大となる点につき、冠動脈結紮時間と心機能モニタリング、組織学的梗塞量の定量化で本課題を克服した。 (2) Ape1過剰発現系の樹立においてはApe1遺伝子導入による最適な発現増幅量及びその均一化は実験結果の解釈に大きな影響を与えるため、遺伝子導入効率を含め、至適発現量の設定を行い安定した純化細胞の作成に成功した。 これら課題克服を前提に、本研究の目的であるCSCにおけるApe1を介した抗酸化・DNA修復機構の機序の解明、Ape1遺伝子導入による自己CSCの虚血耐性・DNA修復機能を介した移植細胞機能の再生・高機能化の検討が前項に述べるとおりに、Ape1遺伝子の過剰発現系並び虚血再還流梗塞モデルを用いて進めることができており、平成24年度計画に基づいて概ね順調に経過していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度においては、前項2であるApe1遺伝子導入Sca1-CSCの虚血耐性機序の検討並びに、実験的虚血再還流梗塞マウスにおけるApe1遺伝子導入Sca1-CSC移植による心保護効果の検討を更に進める。in vitro実験系では過酸化水素(500nM)による虚血負荷実験系を中心に、低酸素環境下での虚血実験系も検討する。現在観察されているApe1遺伝子導入によるアポトーシス抑制効果は抗酸化作用に留まらず、Ape1遺伝子のもつDNA修復機能もその機序の一つである可能性があるため、多面的な検討が必要と考えられる。従って、古典的なTUNEL法による定量化に留まらず、アポトーシス関連遺伝子・蛋白、HIF1、NFκB、p53、p21phox等の発現変容とApe1発現との関連を詳細に検討を進める予定である。 次いで、本研究の最終目的であるApe1-Sca1-CSC導入療法による心保護効果、心筋再生を証明するために本虚血モデルを用いたin vivo実験系を、Sham、placebo、DsRed-Sca1-CSC、Ape1-Sca1-CSCの4群におけるランダム比較対照試験において推進する。現時点で観察されているApe-SCa1-CSC群における心保護効果を統計学的に証明する為、各群の目標症例数を8~10に設定し、検証を進める。また、この心保護効果の機序については心筋再生のみならず血管新生、ホスト虚血心に対する抗酸化、抗アポトーシス効果、抗炎症性サイトカインの抑制効果など種々の機序が想定される。従って、移植モデルにおける移植細胞の移植早期の効果と移植後期における効果・結果をそれぞれに検討する必要があり、本検討を中心に研究をさらに推進する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では、心筋幹細胞のApe1遺伝子導入を介した高機能化、移植効果の改善をin vivo、in vitroの両側面から検討するため、ウイルスベクターの作成、特異的抗体を用いた細胞ソーティング、細胞機能の定量化、移植動物、虚血モデル作成など多岐にわたる実験設備を必要とする。レトロウイルスベクターによる過剰発現系を安定的に供給するために、ウイルス作成のためのGP2293細胞、コンピテントセル、新たに検討を進めるウイルス導入試薬(Lipofectamin LTX)、導入効率を改善し細胞毒性を軽減させるレトロネクチン細胞皿、Maxi-Prep等に等多くの消耗品が必要であり、計上している。特にMACSによるcell sortingに関しては、Sca-1-MACS抗体を使用することが細胞単離の第一段階であるため、多くの抗体数が必要となるだけでなく、DsRedによるDsRed-CSca1-CSC並びにApe-Sca1-CSCの純化には頻回のFACS AREAを使用するための試薬関連の消耗品、機器使用費が必要とされる。また、移植効果の検討並びにその機序解明には、移植早期及び移植後期の各々の検討が必要であり、評価群数が4群の設定であることから全期間で80頭の実験動物購入が必要である。さらに、in vitroの細胞機能の評価、機序解明に際してはPCR試薬、培養に用いる培地、増殖因子などの消耗物品が必要である最後に、最終年度である本年度に本研究で得られた成果を国内、海外にいち早く発信する目的で国内、海外への研究会もしくは学会への参加を目的とした旅費の計上が必要である。
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