研究概要 |
本研究課題では、哺乳類初期発生を制御する微小環境因子として酸素濃度に着目し、マウスES細胞、ヒトES及びiPS細胞を材料に、神経外胚葉の運命決定における低酸素応答機構について研究を進めてきた。これまで、マウス及びヒトES細胞の分散浮遊培養で生じるES細胞塊で、細胞自律的に低酸素領域が形成され、低酸素応答転写因子Hif1- αが活性化されること、Hif1-αノックダウン実験より、未分化ES細胞から神経外胚葉への運命付けにおいてHif1-αが必須の因子であることを明らかにしてきた。さらにクロマチン免疫沈降法により、Hif1-αは神経外胚葉マーカーである転写因子Sox1の遺伝子座に結合し、その発現を正に制御する可能性を示してきた。 最終年度は、Sox1の5’上流に存在するHRE領域にHif1-αが配列特異的に結合し、転写のコアクチベーターp300と共に転写活性化に働くことをルシフェラーゼアッセイの系で明らかにした。また、Sox1の制御とは別に、HIF1-αは神経分化の強力な抑制因子として知られているBMPシグナルを負に制御することで、神経分化の促進に働くことも示した。これらの結果は、神経外胚葉への分化がHif1-αの異なる二つの機能を介して制御されることを初めて示したものであり、国際学術誌に論文として報告した(Zhao et al., 2014)。 ヒトES細胞においても、阻害剤を用いた実験からHIF1-αが神経外胚葉の運命付けにおける重要な因子である結果を得ている。ヒトiPS細胞においてもヒトES細胞と同様の手法で研究を進めてきたが、これまで異なる2株を用いた実験においてHIF-1αの活性化が検出されていない。ヒトiPS 細胞においてはHIF1-α以外の低酸素応答因子が働いている可能性も否めないが、更なる検討が必要と考える。
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