研究課題
今回我々は、間葉系幹細胞の細胞遊走を亢進させる化合物を見つけるために、天然物ライブラリーからボイデンチャンバー法を用いて探索を行い、間葉系幹細胞の遊走を活性化する低分子化合物PL-70、PL-17、PL-C1、PL-G9を同定した。PL-70とPL-G9は菌類成分由来、PL-17とPL-C1は植物成分由来であった。それらのうちPL-70とPL-17について機能解析を進めた。 PL-70が動物体内で幹細胞を誘引するかを検証するために、GFP発現骨髄幹細胞の骨髄移植モデルにて、化合物を含んだマトリゲルプラグを皮下に埋め込み、GFP発現細胞をトレーサーとして使って誘引作用を調べたところ、コントロールと比べて誘引作用が認められた。また、PL-70刺激による細胞遊走に関連するシグナル伝達系について、培養細胞とウエスタンブロッティング法を用いて細胞内機能分子の活性化状況を調べたが、MAPKやAKTは影響を受けていなかった。さらに化合物刺激した細胞を固定して、細胞染色像で細胞骨格の状況を調べたところ、細胞内アクチン骨格に作用する可能性が示唆された。 次にPL-17が動物体内で幹細胞を誘引するかを検証するために、GFP骨髄移植モデルにて、化合物を含んだマトリゲルプラグを埋め込み誘引作用を調べたところ、誘引作用が認められた。また、PL-17刺激による細胞遊走に関連するシグナル伝達系について、細胞内機能分子の活性化状況を調べたところ、特定のプロテインキナーゼの活性化に影響していた。 以上の結果より、PL-70とPL-17それぞれの化合物が、動物体内で幹細胞誘引に作用すること、細胞遊走に関与している細胞内機能タンパクと相互作用している可能性が示唆された。さらに、化合物の機能とメカニズム解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
間葉系幹細胞の細胞遊走を亢進させる物質を見つけるために、天然物ライブラリーからボイデンチャンバー法を用いて探索を行い、間葉系幹細胞の遊走を活性化する低分子化合物を同定している。そこで本研究では、同定した化合物の刺激による細胞遊走の特性とシグナル伝達を解析することで、メカニズムを解明し、さらに、動物組織内での化合物刺激による幹細胞の遊走活性と組織再生の効果を調べることで再生医学へ応用するための基礎確立を目的とした。平成23年度では、化合物刺激による細胞遊走活性の機能特性解析と、化合物刺激による細胞遊走活性のメカニズム解析のうち細胞内機能分子の活性化確認を目標とした。 PL-70とPL-17についてそれぞれ機能解析を進め、動物体内で幹細胞誘引に作用すること、さらに化合物刺激によっておきる細胞遊走に関わる細胞内機能タンパクと相互作用する可能性が示された。以上の結果から、23年度の予定目標をおおむね達成することができた。
23年度に得られた化合物刺激による細胞応答の特性と細胞内シグナル伝達系とを関係付けるため、培養細胞や動物から単離した細胞を用いて標的細胞内機能分子を特定する。また、引き続き動物実験で使用する動物モデルの作製も準備する。さらに得られた結果については学会や論文にて成果を発表する。次年度の具体的な研究方針は、以下のとおりである。1.化合物刺激による活性化シグナルの解析: 細胞遊走に関連のあるシグナル伝達系や遺伝子発現について、ウエスタンブロティングやその他アッセイを用いて、細胞内機能分子のリン酸化や活性化状況を確認する。2.活性化シグナルの関係付け: 細胞遊走の特性と活性化シグナルの結果から、化合物刺激で細胞遊走を活性化する細胞内機能分子を推定し、さらに阻害剤や遺伝子ノックダウン等を利用し細胞遊走活性化に重要なシグナル伝達分子について絞り込む。3.標的分子の同定: 絞り込んだシグナル伝達分子について分子標識した化合物との直接の相互作用を特定することで、化合物刺激による細胞遊走活性のメカニズムを解明する。4.動物モデルの準備: 動物組織で幹細胞遊走と組織再生の効果を調べるために、妥当な動物モデルを作製する。
次年度に関して、特に研究計画に変更はなく、当初の予定通りの計画を進めていく。
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The FASEB Journal.
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10.1096/fj.11-196063fj.11-196063
Journal of Cellular and Molecular Medicine
10.1111/j.1582-4934.2011.01406.x.